• STORIES behind THE WAVES/映像の先に繋がるもの_06 田中未碧
  • 2026.02.24

サーフィンは、自然との深い対話を楽しむ文化だ。波の動き、太陽の光、その中で生きるサーファーたち。そこには、瞬間ごとに無限の可能性が広がっている。その可能性を映し出すのが、フィルマーの仕事だ。映像は単なる記録ではなく、彼らの“フィルター”を通して生まれる表現であり、心象風景を形にする、繊細なプロセスでもある。彼らの頭の中には、どんなビジョンが広がっているのか? それぞれの視点を通じて、サーフィンの魅力をどう表現しているのか? 6人のフィルマーの情熱と創造の世界に、少しだけ足を踏み入れてみた。




'90 年代の影響を受けた自由な映像の世界

2024年末にローンチしたサーフフィルム『Alreadynaked』は、これまでの常識を打ち破り、未来の映像を示した。仲間とのリレーションシップで作り上げる作品とは。



映像は“アート”ではなく、あくまでも“ 記録”

未碧(みりゅう)がカメラを手にしたきっかけは、「サーフィン映像を撮りたい」と思ったからではなかった。実家にあったビデオカメラを偶然手にし、何気なく弟のサーフィンを撮り始めたことが、映像制作に興味を抱くきっかけとなった。弟・田中透生(とうい)は11歳の頃から試合に出場し、現在はJPSAやWQS を主戦場に活躍するプロサーファー。その姿を撮るうちに、次第に映像の持つ可能性に気づき、のめり込んでいった。
もともとモノ作りが好きで、家具やサーフボードを自作することを楽しんでいた未碧にとって、映像制作もまた“モノを作る”という感覚に近かった。特に撮影よりも編集作業に強く惹かれた。映像素材を選び、音楽を組み合わせることで自分の感性やメッセージを表現できることに、大きな魅力を感じている。「映像制作の面白さはその過程にある」と語り、作業を通じて感じた空気感や思いを作品に込めることの大切さに気づいたのだ。

映画や音楽、スケートビデオを愛する未碧は、特に’90 年代のカルチャーに惹かれている。その当時の映像や音楽、ファッションが醸し出す自由で反骨的なエネルギーに共鳴し、そこからカセットのビデオカメラや8mmフィルムにも興味を持つようになった。映像制作において最も大切にしているのは、“空気感”だ。映画監督ハーモニー・コリンの作品や、スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』といった、少し奇妙で奇抜な世界観に影響を受け、それを自身の作品に反映しようとしている。
「映画や音楽、スケートボードの映像を観るとき、『この作品は何を伝えたいのか』を常に考えています。特にスケートの映像は自由な表現が多く、学ぶことが多いです」
映像制作で目指しているのは、「視覚的に新しい体験を提供すること」。親友でカメラマンのレイ(オコレフィルム)と手掛けた『Boys On Analog』では、バリでの旅の模様を映像と写真集で表現。この作品を通じて、映像にストーリー性を持たせることの重要性を再確認したという。また撮影した映像は“アート”ではなく、あくまでも“ 記録”として捉えている。「おしゃれでカッコよく、アートっぽい映像を撮りたいというより、日々の記録を残している感覚で撮影している」と未碧。日常の何気ない一コマを切り取ることで、自然とアート的な要素が加わるのだ。また編集作業においても、その時々の感覚を大切にし、特定のテーマやスタイルに囚われず編集することで、結果的に「アートのような映像」が生まれることが多い。

制作には、弟や友人、カメラマンのオコレフィルム、サーファーでありAlreadynakedで3DCG アニメーションを手掛ける齋藤祐太朗といった仲間たちの協力関係が欠かせない。彼らとの意見交換やコミュニケーションが、新たなアイデアやインスピレーションの源となり、作品に反映される。この協力関係こそが、未碧の映像に独特の魅力を与えている。
「言葉にすると薄っぺらく聞こえるかもしれないですが、仲間とのコラボレーションで最も大切にしているのは「心」です。心で繋がっているからこそ、できあがった作品に愛着が湧き、良いモノが生まれると思っています」
未碧の映像制作にかける情熱と、自由かつ挑戦的なアプローチは、彼の作品に独自の魅力を与えている。都内で開催された最新作『AlreadyNaked』の上映会では、サーフィンをしない人たちからの反響も高く、自信を深めるきっかけとなった。最近では、茅ヶ崎の若手サーフィンチーム「C-boys」の活動に参加し、ビーチクリーンイベントを撮影、その様子を映像としてまとめた。この活動を通じて自然環境への意識が高まり、撮影中に無意識にゴミを拾うようになったという。こうした経験が、映像制作に新たな視点をもたらしている。将来的には、音楽やスケート、さらにはサーフィン以外のカルチャーとの融合を目指し、サーフィンに触れたことのない若い世代にもその魅力を伝えられる作品を作りたいと考えている。


「自分の作品を通して伝えたいのは、表現の自由さです。作品を発表する際、どうしても周囲の評価を意識してしまいますが、本来、表現は自由で楽しいものであるべきだと思っています」
自由であることを大切に、楽しいモノ作りを続ける、それが未碧の信念だ。映像は、彼にとって“ありのまま”を伝える手段。『Alreadynaked』のタイトルにもあるように、「映像を通じて、自分が思っていることをそのまま表現したい」と語る。因みに「ありのまま」という言葉は、見た目ではなく、内面のことを指している。
「言葉で伝えるのが苦手だからこそ、映像を通して自分の気持ちを表現できると感じています」
未碧はこれからも感性を磨き、映像を通じて新しい価値観や想いを発信し続けるだろう。彼の作品が今後どのように進化していくのか、ますます楽しみだ。



田中未碧 / Miryu Tanaka

茅ヶ崎市出身。偶然手にしたビデオカメラでサーフィンの撮影を始め、映像制作の魅力に引き込まれる。『Boys On Analog』、『Alreadynaked』など独自の表現方法でアプローチを仕掛ける。@miryu_tanaka

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>>SALT...#04から抜粋。続きは誌面でご覧ください

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