• 【連載:Ride of a Lifetime】カナダからカリフォルニアまで、ヴァンで旅するサーファーの旅の記録_Episode 5/随所作主
  • 2025.10.29

出来事に意味を与えるのは、それを生きる“自分の心”

ロードトリップの途中、気持ちが高揚する瞬間は数えきれないほどある。なかでも、予期せぬ良い波に巡り会えた時の高揚感は格別だ。それがシークレットスポットなら、なおさら心が躍る。
アゲートビーチから南にあるいくつかのサーフスポットを友人に教えてもらったが、ほとんどは波が小さいか風が入り、ノーサーフが続いた。しかし、ある場所だけはまったく違った。どの波情報サイトにも載っていないそのポイントは、ビーチから写真を撮っていると「頼むからソーシャルメディアにはあげないでくれ」と声をかけられる、まさしく“シークレットスポット”だった。とはいえ、ローカルが厳しく管理しているわけではなく、サーファーなら知る人ぞ知るといった雰囲気。海に入っている人たちも北や南から来ていて、外国人の僕でもすんなり入れ、ギスギスした空気はまったくなかった。
大きな岩の前からブレイクする、美しいレギュラーの波。テイクオフゾーンはやや速いが、それを抜けるとパワフルでありながらトロく、インサイドまでカットバックで繋いでいける。僕のシングルフィンとの相性は抜群だった。

場所をしっかりを把握しておかないと見逃してしまうポイント。メインブレイクはライトだがうねりの向きによってレフトも割れる

この藪を抜けた先にブレイクが存在する。良い波があると分かっていると自然と足取りが速くなる

南オレゴンは無人スポットが点在するが、夏は乏しいウネリと北風の影響でこのようなコンデションがほとんど

緑の森とシースタックがオレゴン州を象徴する。この辺にもサーフスポットがあるが、ボードを抱えて1時間ほどハイキングが必要

そもそも、ショートボードで育った僕がシングルフィンに乗り始めたのは、旅をするようになってからだ。サーフィンを始めたての高校生の頃は、プロのようなサーフィンに憧れ、できるだけ短く薄いボードこそ“カッコいい”と思い込んでいた。だが、基礎もない独学の我流では上達は乏しかった。
オーストラリアを旅していたときにミック・ファニングの本を読み、サーフィンの上達にはシングルフィンが良いと知った。そこから初めてトライフィン以外に興味を持ち、中南米の旅の相棒には、オーストラリアのアイセミテリー、マックス・スチュワートがシェイプするトム・キャロルと共同で作っていた5’9”のシングルフィンを選んだ。
トライフィンの足先だけでサーフィンをしてきた僕には、それは本当に難しかった。波の形状を感じ取りながら、体重移動でレールを入れてターンする。無理に動かそうとするのではなく、波に合わせる。そこには、現代のハイパフォーマンスボードでは感じにくくなった“サーフィン本来の形”があった。

アイセミテリー、ロスト・ラブ改。エルサルバドルの厚くパワーのある波が最高にマッチしたがターンに苦戦した。

それ以降、僕のサーフィンへの向き合い方は変わった。「自分に合うボードを探す」のではなく、「目の前にあるものでいかに楽しむか」。ボードの性能を最大限に引き出す乗り方を追求するようになった。体力は10年前より落ちたし、ハードな波にチャージする意欲も減った。だが、受け入れることを覚えたことで精神的に成熟し、今のほうがずっと楽しく、うまく波に乗れている。ボードとの出合いは偶然ではなく、必然なのかもしれない。僕がボードを選んだのではなく、ボードが僕を選んだ。そう考えると、ライディングの幅は大きく広がる。
今回の旅で相棒にしたのは、クリステンソンの7’10” ウルトラトラッカー。自然が生み出すエネルギーと同調して楽しむのがサーフィンだとすれば、波とボードに自分を合わせることこそ本来の姿だ。10分に一度訪れるセットの波を6人で乗り回し、インサイドまで乗り繋ぐ。パドルバックするときは、次のサーファーが気持ちよくライドする姿を笑顔で眺める。波待ちの間には、「さっきの波、最高だった!」と自然に言葉が交わされ、穏やかな空気が流れる。
いい波を、いい仲間とシェアする。
雑念から解き放たれ、ただ“今”を楽しむ――この瞬間こそ、誰もがサーフィンに求めるナチュラルハイではないだろうか。

クリステンソンの7'10"ウルトラトラッカー。ノーズとテールが薄く、レールもシャープに絞られてるので実際の長さよりも短く感じる

この自然が作り出す芸術は、オレゴンコーストに来たら訪れるべき場所の一つである。カリフォルニア州に入る手前に観光名所が集合する


古川良太(サーファー/鮨職人)
20代の3年間、カナダ、オーストラリア、インドネシア、中南米の波を求めて旅を重ね、サーフィンに明け暮れる。帰国後は鮨職人として6年間修行し、日本文化と真摯に向き合う日々を送る。現在は妻と共にヴァンライフを送りながら、カナダからアメリカ西海岸をロードトリップ中。旅の様子はYouTube「アーシングジャーナル」で定期的に公開。
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