• 高校2年生のロングボーダー間瀬侑良夏が夢の舞台「Queen Classic Surf Fest」に参戦。自身で綴ったイベントの記憶_Vol.4
  • 2024.11.13

フランス・ビアリッツ出身のカリスマロングボーダー、マーゴ・アハモン・テュコと妹のエメ、マーゴの幼馴染のアマヤの3人が2021年に立ち上げた、女性だけのサーフコンテスト「Queen Classic Surf Fest(以下、QCSF)。世界中のスタイルのある女性サーファーを招集し、ミュージック、アート、スケート、サーフィンを通じて、女性サーファーの地位向上、LGBTQ+、フェミニスト、環境問題などを発信するイベント。市の後援やVANSが冠スポンサーとなり、夏のビアリッツの一大イベントへと成長した。このコンテストに日本から唯一、高校2年生のアマチュアロングボーダー間瀬侑良夏(ませゆらな)がクレジットされた。憧れのロングボーダーが集う夢の世界。いつかは出場したいと思い続けていたある日、それは現実なものになった……。この特集は、夢の切符を手に入れた間瀬侑良夏が綴ったイベントの記憶。最終回の今回は、ついにコンテストが終了。憧れのコンテストに参加して得たもの、そして繋げる未来への想い。


コンテスト最終日の朝。
今朝はかなり冷え込んでいる。選手たちとコールを待つ間、あまりの寒さに熱々の紅茶を8杯もおかわりしてしまった。

ようやく海面に陽が射し始め、ローラ・ミニョンのヒートがスタートした。サイズダウンした小波でもスタイルを崩さないローラの美しいバックサイドに、会場からため息が漏れる。セミファイナルからはチーム全員がクレジットされ、文字通りチーム対抗戦となった。
チームでのヒートはとても心強く、お互いのライディングを見守って声を掛け合う。私が失敗しても後ろからニエンケ・デュインマイヤーがコンプリートでカバー。アウトへ戻るとアンブル・ビクトワールが「惜しかったね!」とウィンクしてくれる。ショートボードのリーアン・カレンが離れたピークで決めると手を挙げて喜ぶ。相手チームもまた同じように。

マリーナ・カーボネルの可憐なスイッチスタンスに目を奪われていると、今日一番のセットの波をカリーナ・ロズンコが掴んだ。見事なコンビネーションを決めるとギャラリーはもちろん、チームの枠を超え選手全員がカリーナに歓声を送った。
残り時間が少なくなり、やっとコンプリートした私がピークに戻ると、アンブルがパーティウェーブをしよう! と合図を送ってくれた。チーム皆んなでパドルしてテイクオフ! 手を繋ぐことはできなかったが、この瞬間4人の心は繋がった。
エンドコールがかかった。憧れの彼女たちと同じ海で、隣で、声を掛け合い、歓声を送り合い、ハグを交わす。夢みたいという言葉さえチープに感じてしまうほど感動した。

そして、ラウンドアップコールは「チームレッド!」
昨夜密かに更新した夢を心の中で確認しながらパドルアウトする。QCSF2024のファイナルヒートが始まった。ファーストコールから最初のセットを掴んだリーアンが流れるようにボードを走らせ、会場を沸かせる。後に続けと、他のメンバーも潮が上げてブレイクしづらくなった波に次々とテイクオフしていく。私もアンブルとシェアライドして2人でノーズを決める。選手たちのハイレベルで美しいライディングと雰囲気に後押しされ、自分の実力以上のライディングができていることに驚いた。
相手チームが全員でのパーティウェーブをメイクし、会場から歓声が響いた。リーアンがボードを変えに走り、戻ってくると会場はさらに盛り上がる。残り時間はあと少し、パーティウェーブタイムに突入した!
会場から声援が聞こえ、海の中では選手たちがBGMに合わせて口ずさみ、笑顔が絶えず溢れていた。この時間がずっと続いてほしいと思っていたが、ついにエンドコールがかかり、終了。ホーンに合わせて皆んなで海面を叩いて水しぶきを上げる。アバのダンシング・クイーンが流れ、最後の波を待ち、8人全員のパーティウェーブでフィナーレを飾った。

たくさんの拍手と歓声で迎えられ海から上がるとビールが手渡され、ファイナリスト全員で乾杯とハグを行う。記念撮影を済ませ、結果は今夜のパーティで発表される。
午後もイベントは続き、マイノリティの人々にコミュニティや繋がりを提供しているCLUB DE SURF QUEERによる、LGBTQ+のサーフセッションやアームレスリング大会、女の子だけのスケートチームSKATEHERとVANSチームライダーによるコンテストが開催。さらに映画配信サービスMUBI主催による、トップアスリートが社会問題を公の場で発言するリスクと影響についての公開討論会が、地元のラジオ局DIA RADIOやポッドキャストから配信された。

陽が傾き始め、再び選手たちが集合。美しいオレンジ色に染まった会場で表彰式が始まった。より多くの波をメイクし、素晴らしいライディングでチームを盛り上げたマリー・ショシェとメイシー・マチャドにサーフボードが贈られ、その影響力からQCSFには欠かせない存在となったサーシャ・ジェーン・ロワーソンへ「ゴッド・マザー賞」が贈られた。

そして優勝チームの発表。ステージ裏の私たちに司会のアンブローズ・マクニールさんの声が響いた。

「チーム、レーーーッド!」

大興奮でステージへ上がると賞金、トロフィーが手渡され、マイクまで回ってきた。頭が真っ白になり会場の声援がだんだん遠のいていく。ヒートに向かうより緊張したが、アンブル、リーアン、ニエンケに続き、たどたどしくも今この瞬間の喜びを伝えることができた。会場からも拍手が贈られ、夢心地のまま今年のクィーン・オブ・クィーンズの発表を聞く。
高いスキルと華麗なスタイルを持ち合わせた正真正銘のクィーン。誰もが納得のエクセレントスコアを出した、カリーナ・ロズンコの名前が呼ばれた。ステージに上がり「ここにいるみんながクィーンよ!」という彼女の第一声に感動して鼻の奥が痛くなった。

陽が沈み、真っ暗になるまで写真を撮り、称え合い、誰からともなくQCSFに参加できたこと、皆んなに出会えたこと、また再会できることを願ってハグをした。カリーナは王冠を私の頭に被せてくれて、チームのメンバーはトロフィーを譲ってくれた。終わってしまうのが寂しい。ここにいる全員がこのコンテストは特別なものだと思っていることが伝わり、私の新しい夢のビジョンが見えた気がする。
そして大盛り上がりのDJタイムを少しだけ楽しんだ後、ヴィラ・ベルザに別れを告げた。


翌日、エルワンさんを通じて知り合ったフランス在住28年の西野渉さんにお願いして、QCSFのヘッドジャッジを務めたスタイルサーファー、クロヴィス・ドニゼッティさんとお話する機会を得た。カフェで待ち合わせ、コンテストでの私のライディングや今後のアドバイス、そして“スタイルサーファー”について貴重な話を聞くことができた。ここでの話は私の中の引き出しに大切にしまっておく。いつか自分の言葉で話せるときがくるまで。

ビアリッツでの奇跡のような日々が終わり、帰国のときがきた。ヒーローの住む街ビアリッツ。飛行機の窓から小さくなっていく街を眺めながら色々と思う。
イスラエル軍に空爆されたパレスチナ・ガザ地区で最初の女性サーファーである、ラワンド・アボ・ガーネムさんとその家族を支援するため、リーアンがボードを削り抽選会を行ったこと。ラワンドさんの従妹が夏に湘南で上映されたドキュメンタリー映画『ガザ・サーフ・クラブ』に登場した少女であること。そしてパレスチナに根付く男性優位の考え方から女性の教育、海へ入ることなど自由が制限されているということ。
サーシャ・ジェーン・ロワーソンが初のトランスジェンダー・サーファーとして優勝したとき、サーフコミュニティから否定的意見にさらされたこと。サーフィンの世界に限らず、女性蔑視やLGBTQ+の人たち、マイノリティに対する偏見や嫌悪が少なからずあること。
憧れのサーファーが出場していなければ、これらのことは知らなかったかもしれないし、興味を持たなかったかもしれない。このコンテストを作ったのが女性たちであることが嬉しく、憧れる。
QCSFでは、マイノリティであることや多様なアイデンティティが受け入れられ、人種や言葉の壁を越えて一人ひとりがお互いを認め、敬意を払っていると実感した。
女性を撮り続けている写真家のアンジー・ゴンザレスさんとMexiLogFest以来の再会を果たし、光栄にもポートレートを撮ってもらい、女性の強さや美しさ、母性を表現したいという彼女の放つエネルギーにもパワーをもらった。

photo:@angiegophoto

私のような経験の浅いサーファーがトップサーファーと同じ舞台で肩を並べ、そのスタイルを学ぶ機会、新しい世界を知る機会を与えてくれたQCSFに感謝をしたい。そしてQCSFの波が世界中へ届くことを心から願う。
母、家族、私を応援して支えてくれている多くの人の助けによって夢のひとつを叶えることができた。そして新たな夢を見つけることも。感謝の気持ちが溢れて胸が熱くなる。
トム・カレンの娘であるリーアンやロブ・マチャドの娘であるメイシーなど、世代を超えてカルチャーが受け継がれていく。私がサーフィンと出合い、SNSや憧れの女性サーファーたちからインスピレーションを受けたように、私もいつの日か誰かに影響を与えられるようなサーファーになりたいと、強く思った。
ここで見たもの、出会った人々、得た力は間違いなく私のサーフィンの、人生の旅を豊かにしてくれた。

photo:@𝗹𝗶𝗹𝘆 𝗮𝗹𝗹𝗲𝗴𝗿𝗮

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間瀬 侑良夏(ませ ゆらな)

高校2年生/アマチュアロングボーダー

2007年生まれ、神奈川県川崎市在住。サーフィンとの出合いは11歳。14歳のときにシングルフィン・ロングボードコンテスト「THE ONE」に出場したことをきっかけに本格的に始め、2023年のTHE ONE LW 1st. classで優勝。また同年メキシコのラ・サラディータで開催されたMexiLogFestから招待を受けて参戦。
Instagram:@yurana_mase


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