• Burleigh Single Fin Festival 2025_ヴィンテージ・シングルフィンの競演(後編)
  • 2025.06.26

2025年1月11日。ゴールドコーストの夏の風物詩として知られている「バーレー・シングルフィン・フェスティバル」が開催された。1985年以前のシングルフィンのみを使用するというユニークなレギュレーションのもと、ジュニア24名、ウィメン24名、メン96名、マスター6名の計4クラス、総勢150名がエントリー。後半となる今回は、いよいよ中村拓久未と安室丈が登場。果たしてふたりの結果はいかに。


ヒートはジュニアから始まり、ウィメン、メンと進行し、12ヒート目に拓久未が登場した。バーレーヘッズの丘から続く国立公園を抜けた岬の裏からエントリーし、メインとなるザ・ポイントに選手6名がラインナップ。その中には、元CT選手で「ウィルコ」の愛称で知られるマット・ウィルキンソンと、マーク・オクルーポ(オッキー)の姿も! オッキーは毎年この大会に参加するのを楽しみにしており、今年は息子のジェイと共にエントリー。憧れのレジェンドと同じヒートと知った拓久未は興奮を隠せず、ヒート前に記念撮影をする一幕もあった。強いサイドショアにより海面は乱れ、カレントも強く、パドルを続けていなければポジションをキープできないコンディションの中、開始のホーンが鳴った。バーレーヘッズは、オーストラリアはもとより世界有数のライトハンダーとして知られ、うねり、風、潮まわりの条件が揃えば、究極のチャレンジング・ステージになるポイント。サイズが上がるとソリッドなチューブが形成され、永遠と続くロングウォールが出現。「バーレーの波は中毒になるから危険だ!」とインタビューした全員が口を揃えたが、残念ながら今回はお預けとなった。
大きく左側にポジションを取った拓久未が、1本目の波にテイクオフした。ボトムターンからスムーズにトップターンへつなぐと大きなスプレーが上がり、強く蹴り込んだオフ・ザ・ボトムによりノーズが縦に上がる。ヴィンテージのシングルフィンとは思えないボードの取り回しとパワフルなライディングで3.93ptをマーク。合計5本乗ったが、この1本目が最高得点となった。
「いつもヒート前は少し緊張するのですが、今回は全く緊張せず、楽しく臨めました。1本目の波はサイズもあり形も良かったのですが、実は流して乗っていて40%くらいの力しか出していませんでした。あの波をもう少し力を入れて乗っていたら、5~6ptは出せていたかもしれないです。悔しいので、もう1回リベンジしたいです!」
普段のコンテストであればピークを目指し貪欲に波を追うが、大会のコンセプトや会場の雰囲気、海の中のリラックスしたムードを敏感に感じ取った拓久未は、“勝ちにいく”というマインドをオフにし、目の前に来た波をただ楽しみながら乗った。
「シングルフィンは、いつも乗っているスラスターよりスピードが早く、グライド感もあったので、“波に乗っている”という感覚をより味わえました。レールも力も、抜くところは抜いて、入れるところはしっかり入れる。抜いているときは、ボードがめちゃくちゃ走りました」
ツインフィンは3年ほど前から少しずつ乗り始めていたが、シングルフィンに乗ったことはほぼ皆無だった拓久未。YUさんからライトニング・ボルトのシングルフィンを借り、オーストラリアに持ち込んで前日から練習を重ねた。乗り込んでいけばもっと楽しくなりそうとシングルフィンの魅力に気づき、帰国したら1本オーダーすると目を輝かせていた。


続く13ヒートには丈が出場した。このヒートには、なんとオージー・ライトがエントリー! 2ヒート続けてのスーパースターの登場に、会場は大いいに盛り上がった。オープニングウェーブでいきなりフローターを決めたが、前が崩れてしまい、2.93ptというスコア。初めて乗ったヴィンテージボードとは思えない、スピードに乗った素晴らしいライディングを魅せる天才サーファー。拓久未と同じく5本乗り、本人が「ライン取りが良かった」と振り返る3本目の3.77ptが最高得点となった。
「いつも乗っているスラスターと比べても遜色なく、動きはスムーズでした。ボトムターンで伸びるし、分厚いレールにも関わらず、パワーゾンでレールを入れると素直に反応してくれました。フィンが1本だから、(フィンが)波に入っていく感覚がしっかり伝わりました。スラスターは緩慢なセクションではパンピングすれば抜けていけるけど、シングルフィンはレールを入れないと走らなかったです。弾くのではなく、レール・トゥ・レールでスピードをつける――そこが面白かったです」
ラディカルなアクションは控え、シングルフィンの特徴を生かしたスタイリッシュなサーフィンを意識した丈。シグネーチャーでもあるトップターンからの大きなカービングも披露し、ヒート終了間際まで2位をキープしていたが、最後の1本が乗りきれず逆転負けを喫した。
「この大会のことは2~3年前から知っていて、ビラボンから出場のオファーをもらったときは嬉しくて、いい波だったら最高だなって思っていました。昨年の映像を見たとき、選手の多くが短めのボードに乗っていたので、これなから勝てるかも! という自信はあったのですが……。ヒートでは掘れている波が多く、スラスターならクイックにターンして抜けていけるところがシングルフィンではそうはいかず、苦戦しました。焦って早い波に手を出しすぎたので、もう少し開いている波に乗れればよかったです」
結果としてふたりとも1回戦で敗退したが、普段のコンテストとは異なる選手、レギュレーション、雰囲気を味わえたのは新鮮で、さらにシングルフィンの奥深さを実感することができた。
2日目のメンズのファイナルヒートが行われる前に、ステージ上ではセレモニーが行われた。最初に、ファースト・ネーションの代表が登壇し、オーストラリアの先住民族アボリジニへ敬意を表するスピーチが行われ、その後、亡くなったボードライダースメンバーのために1分間の黙祷が捧げられた。そして最後に選手紹介。唯一のバーレーヘッズ・ボードライダースメンバーである相澤日向の名前がコールされると、会場には割れんばかりの歓声が上がった。オーストラリアで生まれ育ち、現在もオーストラリアで活躍している日向。結果は5位に終わったが、オッキーやマーゴ、オージー・ライトをおさえての入賞であり、表彰台に上がった唯一の日本人である。その姿は誇らしく、近い将来日本人が優勝する日もくるはずと確信した。


2日間のコンテストを終え、日本とオーストラリアのサーフシーンに大きな違いがあることに気付いた。それは地域に根付いたサーフコミュニティの存在。
オーストラリアでは、「サーフィン・オーストラリア」を頂点に、各州の団体(例:サーフィン・クイーンズランド)、その下に各地域のボードライダークラブ(例:バーレーヘッズ・ボードライダース)が組織されている。全国に85のクラブがあり、中でもバーレー、キラ、スナッパーは強豪として知られている。クラブのメンバーシップ費は、おおよそAUS$100~150。プロもアマチュアも関係なく並列の会員となるため、リストには憧れの選手と肩を並べて名前が記載される。そしてプロたちは、かつての自分たちがそうであったように、子供たちの育成に力を注ぎ、テクニックやメンタル、戦略を指導する。子供たちもプロに積極的に質問し、貴重なアドバイスを得ている。またクラブによってはビッグウェーブ・サーファーも所属しており、波の特性やトレーニング方法など、普段なかなか知ることができない情報を教えてもらっている。プロが身近にいるという、何とも羨ましい環境。昨年優勝したのはCT選手のリアム・オブライエンで、彼もバーレーヘッズ・ボードライダースのメンバーの一人。忙しいツアーの合間を縫って、クラブの活動に参加しているそうだ。アメリカやバリにも同様のボードライダースクラブが存在し、選手の交流や交換プログラムを通じて、国際的な繋がりも生まれている。また、クラブには地域活性化の側面もあり、市や州に対して補助金を申請することができ、各団体は非営利団体の組織として運営されている。日本にもNSA(日本サーフィン連盟)があるが、プロは別の組織に属しており、この点が大きな違いとなる。プロショップ単位での集まりもあるものの、横の連携をとり、地域単位で活動している姿はあまり見受けられない。さらにサーフユニオンという組織もあるが、これは業界の発展や普及を目的としており、ボードライダークラブとは根本的に成り立ちが異なる。オーストラリアがサーフィンに適した気候や波質のため盛んであることは揺るぎない事実だが、アマチュアもプロも区別なく、地域コミュニティの一員として活動する文化が、サーフィン大国の礎を築いていると確信した。

前編はこちらからチェック

photography _ MACHIO 
special thanks _ Billabong, Zack Balang, Burleigh Boardriders

>>SALT...#04から抜粋。続きは誌面でご覧ください。

「SALT…Magazine #04」 ¥3300
サーフィン、暮らし、生き方、そして思考をより本質的なものへと回帰。シンプルで持続可能な在り方を追求することこそが、真の豊かさにつながる。

<Contents>
⚪︎Burleigh Single Fin Festival
⚪︎未知なる領域へ̶̶ サーフィンの新境地
⚪︎シングルフィンを愛する10人のインタビュー
⚪︎STILL AND TRUE
⚪︎笹子夏輝 ~カリフォルニア・スタイル巡礼の旅
⚪︎サーフィンによるマインドセットのススメ
⚪︎Stories Behind the Waves
⚪︎今を生きるサーファーたちのダイアログ
⚪︎世界の果て、南ポルトガル・サグレス
⚪︎Column _ Miyu Fukada

オンラインストアにて発売中!

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