• 【特集】SURF MUSIC makes us "SALTY" #05 -サーファーだけが知るアンダーグラウンドという美学-
  • 2024.10.22

海と対峙するとき、音楽は円滑油のような効果を発揮する。サーフィンと音楽が絡み合い起こる化学反応。多くの先人たちの言葉を交え時空に綴れ織りを描くとき、サーファーとダンスの関係が見えてくる。


日本国内にもプロミュージシャン級のサーファーは数多くいるが、あくまでも趣味の範疇と深入りしない傾向が強く、仲間内で楽しければ良しとされている。ディック・デイルの出現からヴェンチャーズ、ジミ・ヘンドリックス、ジョー・サトリアーニ、未来に羽ばたくギターリストの中にはサーフィンを取り上げた楽曲も少なくない。ジミヘンでさえ'67年モンタレーのフェスでサーフミュージックは死んだと唱えたが、その反面アルバムの「サード・ストーン・フロム・ザ・サン」では水中から見えるサウンドこそ、サーフミュージックと語っている。またサーファーたちが集い企んだマウイ島のフェスにも参加し、その映像はDVD化されている。奇妙なヒッピーたちのシーンの合間に、デヴィッド・ヌヒワのサーフシーンが重なる。もちろん音楽はジミヘンである。ここにもまた、アメリカの徴兵を逃れた全米チャンプのラスティ・ミラーが一役以上を担っていた。時代を経て、カリフォルニア・ラグーナビーチでブラザー&シスターが主催した「ムーンシャイン・フェスティバル」、バイロンベイの「ブルース&ルーツ・フェスティバル」然り、その始まりの中心にはサーファーたちが深く関わっていたのも事実である。またこれもサーファーらしいのだが、創設者たちはフェスが巨大化すると潔く後継者に任せ、海に戻ってしまう傾向がある。金は必要だが金に縛られたくない、そんなアンダーグラウンドの美学を受け継いでいるのだろう。

 プロサーフィンのコンテストでも、前夜祭やファイナルパーティでのライブは恒例だ。'60年代はギターインストルメンタルバンド、'80年代はパンク系、21世紀に入るとアコースティック系が主流となる。大手サーフブランドも積極的に独自のアーティストをプロモーションするようになった。クイックシルバーはジャック・ジョンソン、ビラボンはドノヴァン・フランケンレイターをメジャーに押し上げた。彼らのような世界的ブレイクこそ果たせなかったが、リップカールは奇才デレク・ハインドをプロデューサーに据え、ピコを自社イベントやビデオで起用しアコースティックブームにアバンギャルド的要素を取り入れた。日本国内のサーフイベントでもケイソン、東田トモヒロ、デフテック、平井大などのライブアクトは人気が高い。彼らは音楽同様に熱心なサーファーである。

 今日、サーファーが好んで聴く音楽は過去と比べようがないほど多様化している。選択肢は増えたが、古今東西を問わず他と異なるアンチの姿勢だけは変わらない。最先端を走るサーファーが密かに聴いているサウンドがメジャー化すると、それまでとは真逆の方向に転換する法則がある。アンダーグラウンドに美学を覚える習性は、ミッキー・ドラが生み出した反骨精神の賜物なのだろうか。

潮の香りをまとったソルティな音楽は、サーフィンライフを豊かにしてくれる。リズムとメロディに身を寄せ波の上を踊る、ここにサーフミュージックの原点がある。

【SURF MUSIC makes us "SALTY"バックナンバー】
#01-潮騒香る音楽に身を委ね踊るとき-
#02 -ショートボード革命とサイケデリックサウンドの相関図-
#03-世界中で無限の変貌を遂げ始めたフラワーチルドレンの種-
#04-制限なき選択ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド-

>>特集の続きは本誌でご覧ください。

「SALT…Magazine #01」 ¥3,300

本誌では24ページにわたってSURF MUSICを特集。“サーフィンと音楽”の蜜月関係から、アンドリュー・キッドマンのインタビュー、抱井保徳さんのコラムなど掲載。潮の香りをまとったソルティな音楽は、サーフィンライフを豊かにしてくれる。


photography_Jeff Devine text_Tadashi Yaguchi

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