• 【シングルフィン特集】DICK VAN STRAALEN_類まれな感覚で紡ぐホリスティックな人生
  • 2025.07.10

シェイプ歴60 年を超えるリビング・レジェンド、ディック・ヴァン・ストラーレン。御年80 歳を迎えた今も、頭の中はシェイプのことでいっぱいだ。“そのときのフィーリングで削る”。それ以上でも、それ以下でもない。


「わたしが唯一影響を受けているのは、自然の造形美」

「最近身体を壊して、あまり調子が良くないんだ」
辛さを隠しながら、笑顔で出迎えてくれたディック・ヴァン・ストラーレン。握手した手は、これまで数えきれないほどのボードを削ってきた職人の手であり、温かく、大きかった。ディックは第二次世界対戦中にオランダで生まれ、8歳のときにボートでシドニーにやってきた。父親はシェフをしており、自身も「将来は手を使って何かを作る仕事に就きたい」と漠然と考えていた。1956年、メルボルンオリンピックの際、アメリカのライフガードチームの一員としてグレッグ・ノールをはじめとする数名のサーファーがオーストラリアに渡り、ベルズなどでサーフィンのデモンストレーションを行った。彼らのライディングを目の当たりにしたディックは、サーフィンに強く惹かれ、18歳でシェイプを始めるようになった。彼が最初に削ったボードは、今でもリビングの一角に大切に飾られている。

ディックの思考は、常に全体のバランスを見る、“ホリスティック”な考え方である。物事を切り分けるのではなく、全体を俯瞰して繋がりを考えながらカタチ作る。それはボード作りにも顕著に表れており、カスタマーからの細かなリクエストには応じず、全体の調和、すなわち“トーラルバランス”を最優先して仕上げる。それは長さであっても然り。但し相手を深く理解した上での判断であり、決してエゴではない。出来上がったボードがオーダーと異なることに最初は戸惑うカスタマーも、波に乗った瞬間にディックが正解であることを確信する。

この“トータルな視点”は、彼のライフスタイル全般にも及ぶ。健康面についても、食事、運動、環境、メンタルを一体なものとして捉えている。毎朝4時半に起床し、呼吸を整え、ヨガや瞑想、タイチ(太極拳)を行った後、海へ向かう。凍えるような寒い日も、雨の日もフィンを持って海に入り、ひとり泳ぐ。現在はサーフィンをしていないが、海に入ると気持ちが落ち着き、マインドセットができるそうだ。

ディックの名を一躍世界に知らしめたのは、2004年にジェフ・マッコイが制作したBillabongのフィルム『Blue Horizon』だった。作中では、アンディ・アイアンと共にフィーチャーされたデイブ・ラスタビッチが、驚異的なスピードとトライフィンでは描けないカービングを披露し、観る者に衝撃を与えた。そのときにデイブ乗っていたのが、ディックが手掛けたツインフィン「Rocket Fish」だった。その後、デイブのために開発した「Hydro Hull Fish」は、デッキとボトムに深いコンケーブを施し、パドリングの安定性とさらなる加速性を実現した。現在のデイブのスタイルを作り上げたのは、間違いなくディックが大きく影響している。デザインだけでなく素材についても革新的なアプローチを行い、カーボンファイバーやエポキシ樹脂などを積極的に採用した。

デイブ・ラスタビッチから送られてきた子供との写真。デイブが14歳のときにバーレーヘッズで出会い、それからずっと師弟関係が続いている

ディックに、シングルフィンについて尋ねると、「昔はよく削っていたけど、今はツインフィンの方が好み」と即答。それではと、シェイプ理論や哲学について問うと、「そんなものはない。そのときに感じたまま削っているだけ」と一蹴。これまでに削ってきたボードの本数やモデル名、テンプレートの数についても「数字に意味はない、気にするな」と一笑に付した。ただロゴに関しては愛着があるようで、ウィングが印象的なロゴは奥さんがデザインており、2匹のコブラは守り神、イン・アンド・ヤンはバランス、ハートは愛、ウィングは自由を表していると詳しく教えてくれた。

「わたしは、“マジック・プレゼント”という言葉を気に入っている。その意味は、今にフォーカスする。過去のことや未来のことなんかどうでもいい。大切なのは、今この瞬間だ」
そう言うと、ディックは今まで見せなかった笑顔を浮かべ、大きく笑った。

photography : MACHIO

>>SALT...#04から抜粋。続きは誌面でご覧ください

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サーフィン、暮らし、生き方、そして思考をより本質的なものへと回帰。シンプルで持続可能な在り方を追求することこそが、真の豊かさにつながる。

<Contents>
⚪︎Burleigh Single Fin Festival
⚪︎未知なる領域へ̶̶ サーフィンの新境地
⚪︎シングルフィンを愛する10人のインタビュー
⚪︎STILL AND TRUE
⚪︎笹子夏輝 ~カリフォルニア・スタイル巡礼の旅
⚪︎サーフィンによるマインドセットのススメ
⚪︎Stories Behind the Waves
⚪︎今を生きるサーファーたちのダイアログ
⚪︎世界の果て、南ポルトガル・サグレス
⚪︎Column _ Miyu Fukada

オンラインストアにて発売中!

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