• 【連載:Ride of a Lifetime】カナダからカリフォルニアまで、ヴァンで旅するサーファーの旅の記録_Episode 15/千里一到
  • 2026.03.18

スコーピオンベイへの長い道

スコーピオンベイへのアプローチには、主に2つのルートがある。サン・イグナシオという町から、ひたすら塩の平原や砂地を抜けていくノースルート。もう一つはハイウェイ1沿いを進み、南からアプローチするルートだ。だが、マップでさらに調べてみると、内海側から一直線に抜ける道も存在した。ガイドブックによれば、どのルートを選んでも未舗装路は避けられない。北は距離が短い代わりにダートが長く、万が一スタックすれば、数日間誰も通らない可能性もあるという。南は安全だが遠回りになる。熟考の末、内海側からのルートが最も合理的に思えた。週末にかけて波が上がる予報だった。そのタイミングに合わせ、僕らはスコーピオンベイへ向かった。
内海は、これまで通ってきたバハとはまた違う表情を見せた。穏やかで、スカイブルーに透き通った海。緑も増え、気温も幾分か高い。人がほとんどいない太平洋側とは違い、町もあり、ところどころ栄えている印象だった。ハイウェイから隠れた誰もいないビーチでキャンプをしたり、少しずつ車を進めていく。予定に縛られていないから、急いで運転する必要もない。きれいな場所があれば寄るし、キャンプしたい場所があればキャンプする。特に何をするわけでもなく、ただその場所にいる。旅がライフスタイルになっている僕らにとって、時間の使い方は無限だった。

太平洋側は乾燥していて砂漠だったが、内海に行くとパームツリーも生えてて、違う国に来たように景色を変えた

内海にある海の目の前のキャンプ場。メキシコ本土との間で湾になっていて穏やかな時間が流れる


翌日、グーグルマップを頼りに太平洋側へと右折する。
「あれ?」
地図上では太い道だった。途中までは舗装路だと思っていたが、実際にはオフロードだった。だが、そこまでの悪路でもなかったので、とりあえずタイヤの空気圧を下げて、ただまっすぐ進んだ。バハの太陽がじりじりと肌を刺す。奥へ進めば進むほど、道は険しくなっていく。妻に車から降りてもらい、足場を確認してもらわなければ通れないような崖際の道を抜ける。ハンドルを握る手は震えていた。こんな道をあと100キロも進まなければならないと考えると気が遠くなる。だが、もしかしたらこの難所を抜ければ平坦な道が続くのではないか。そんな期待を抱きながら進んでいったが、道はさらに悪くなる一方だった。前方から一台のトラックキャンパーがやってくるのが、遠目に確認できた。すれ違えるスペースで停車し、話を聞いた。この先に1メートルを超えるギャップがあり、彼らの四駆の車でも通れないと判断して引き返してきたのだという。到底、僕らのヴァンでは無理だ。僕らも彼らに次いで引き返すことにした。

南に下っていくとだんだんとサボテンが増えていった

ハイウェイの途中にあったサボテンと大きな岩で囲まれるキャンプ場

これぞバハという景色! サンダルで歩き回っていたが、ガラガラヘビやサソリがいるらしい

迷い込んでしまった内海から太平洋へとつながる道。途中でトラブルが無く出てこれて本当に良かった

仮に最後まで進んで通れない場所があったとしたら——。この道に入ってから1時間の地点で引き返せたのは、むしろ幸運だった。だが、僕は焦っていた。翌日がベストコンディションになるとわかっていたからだ。しかし、南からの道は4時間はかかる。メインのハイウェイに戻ってきたときには、すでに16時を回っていた。明るいうちに着けないのはわかっていた。それでも、強行するしか僕の頭にはなかった。
そこからは太陽との競争だった。いかに日が沈む前に距離を稼げるか。夜になり視界が悪くなると、さまざまな危険がある。センターラインをはみ出してくる大型トレーラー。道を渡ろうとする牛。カルテル。警察ですら、人目につかない場所では何をするかわからない。残り150キロのところで陽は完全に沈み、辺りは街灯もなく真っ暗になった。車のヘッドライトだけが視界を照らす。視界が悪いので速度を落として走っていると、道のど真ん中に一頭の牛がいた。こんなのに突っ込んだらひとたまりもない。ゆっくり走っていて本当によかったと、心の底から思った。南からの道も、最後の30キロは未舗装路だとガイドブックには書いてあった。だが、なんとスコーピオンベイの町まで走りやすいように舗装されていて、なんとか20時ごろには到着することができた。

海辺の崖の上にヴァンを停めると、月明かりが海面を静かに照らしていた。時折、セットの波が崖下に押し寄せる。その音は、うねりがすでに入り始めている証だった。とうとうここまで来た。12秒間隔で規則正しく割れる波の音を聞きながら、高鳴る鼓動を静かに落ち着かせ、僕は眠りについた。

とあるシークレットスポット。波は小さかったが形よく割れていて、ロングに最高の波


古川良太(サーファー/鮨職人)
20代の3年間、カナダ、オーストラリア、インドネシア、中南米の波を求めて旅を重ね、サーフィンに明け暮れる。帰国後は鮨職人として6年間修行し、日本文化と真摯に向き合う日々を送る。現在は妻と共にヴァンライフを送りながら、カナダからアメリカ西海岸をロードトリップ中。旅の様子はYouTube「アーシングジャーナル」で定期的に公開。
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