• 【連載:Ride of a Lifetime】カナダからカリフォルニアまで、ヴァンで旅するサーファーの旅の記録_Episode 12/行脚無住
  • 2026.02.04

バハ・カリフォルニア、国境の先で

辺りに漂う下水の臭い。舗装はされているが、穴だらけの道。車窓に広がる景色は砂ぼこりで霞み、国境を越えた瞬間、世界はガラリと姿を変えた。
このロードトリップを計画した当初から、バハへの旅は選択肢のひとつにあった。ただ、8年前のように一人で我武者羅に旅をしていた頃とは状況が違う。今回は妻と一緒だ。その事実が、安全面において簡単に「行く」という決断を許さなかった。
アメリカを南下する道中、バハに行くつもりだと話すと、サンディエゴに近づくにつれて、よりリアルな情報が集まり始めた。ネットに流れてくる情報をすべて鵜呑みにしてはいけない。“メキシコ=危険”というイメージが根強く存在するのは確かだ。だが、メキシコにも普通に生活している人たちがいる。修羅の国に足を踏み入れようとしているわけではない。僕たちは、楽園に向かっているのだ。

国境を越えた道中。右手に設けられている高い柵がアメリカとメキシコとの国境

バハに行ったことがある人たちは、口を揃えてこう言う。「バハは最高だ。また戻りたい」。この一言に、すべてが詰まっている気がした。とはいえ、楽園にも危険な側面があるのは事実だ。約2年前、オーストラリア人2人とアメリカ人サーファー1人が、井戸の中で見つかるという事件があった。旅行者がトラブルに巻き込まれる話を耳にすることもある。だが、それが日常茶飯事というわけではない。守るべきことは2つだけ。陽が落ちたら運転しないこと。管理されたキャンプ場に泊まること。これさえ守れば、ほとんどの危険は回避できると聞いていた。
バハ・カリフォルニアは、サーファーの間では秘境とされている。「本当のカリフォルニアは、バハにある」そんな言葉を耳にしたこともある。アメリカとの国境から、南端のカボ・サン・ルーカスまでの直線距離は約1200キロ。日本に当てはめると、北海道の北端から九州の南端までに相当する。その間に、数えきれないほどのサーフスポットが点在している。しかも、その多くが無人波だ。電波が安定しない場所も多く、ナビゲーションは必然的にアナログになる。そのため、アメリカのサーフショップでバハ・カリフォルニアの“バイブル本”を購入した。
サーフフィルムで目にするバハの映像は、ほとんどの場合、場所が明かされない。果てしなく続く一本道、巨大なサボテン、メローな無人波、そしてタコス。危険を顧みずとも、サーファーの欲望を満たすには十分すぎる冒険だ。ようやく、旅らしい旅が始まった。そんな気がした。

バハのサーフスポットを網羅しているガイドブック。古い情報もあるのでアップデートが必要

バハに来て最初のタコス。手作りのトルティーヤと炭火で焼かれた牛肉の香りがたまらない


僕たちは国境を越えた先の町、ティファナをスルーし、途中のタコス屋で腹を満たして、最初のサーフスポットを目指した。K38。高速道路38km地点にあることから名付けられたポイントだ。サンディエゴから車で30分ほどという距離もあり、アメリカ人サーファーにも人気がある。この日はすでに風が入り、コンディションは落ちていた。そのため、先にあるキャンプ場で一泊し、出直すことにした。
翌朝、ポイントへ向かうと波はしっかりと割れていた。目の前のブレイクは少し速そうだったため、左奥のポイントへパドルアウト。北上していたストームのうねりで、サイズは5フィートほど。有名なポイントだけあって人は多かったが、十分に楽しめる波だった。

K38ビーチ。沖合にウニのファームがあるようで、インサイドはウニ地獄になっている

セットの波が手前で掘れ上がるので、タイミングを見計らってエントリー

久しぶりに味わった、まとまっていて力強い波長12秒のうねり

パワーはあるものの厚めの波だった、K38 1/2と呼ばれる次のブレイク

3000円で泊まれるキャンプ場。週末はローカルたちで賑わう

僕たちは、まだ北の玄関口に立ったに過ぎない。この先、どんな世界が待っているのか。鼓動が早くなるこの感覚は、新たな旅への高揚なのか。それとも、拭いきれない危険への恐れなのか。きっと、その両方だ。そんな気持ちを胸に抱きながら、僕たちはさらに南へと車を走らせた。

毎夕見れるサンセットはいつも違う姿を見せてくれる


古川良太(サーファー/鮨職人)
20代の3年間、カナダ、オーストラリア、インドネシア、中南米の波を求めて旅を重ね、サーフィンに明け暮れる。帰国後は鮨職人として6年間修行し、日本文化と真摯に向き合う日々を送る。現在は妻と共にヴァンライフを送りながら、カナダからアメリカ西海岸をロードトリップ中。旅の様子はYouTube「アーシングジャーナル」で定期的に公開。
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