• 【連載:Ride of a Lifetime】カナダからカリフォルニアまで、ヴァンで旅するサーファーの旅の記録_Episode 10/体得理解
  • 2026.01.07

サンクレメンテ、5キロの海岸線を身体で知る

ロサンゼルス空港から南にクルマを走らせること約1時間。南北に5キロにも満たない間に、サーファーにとって夢のようなコーストラインが広がっている。そこが、サンクレメンテだ。
トラッセルズという名前は、WSLの大会やサーフメディアを通して幾度となく目にしてきた。サーファーであれば、一度は耳にしたことがあるだろう。だが、それぞれのポイントがどこに位置し、どんな個性を持っているのか。そこに足を運び、肌で感じるまでは、僕はほとんど理解できていなかった。
北はコットンズから、南はサンオノフレまで。短い海岸線の中に、世界中のショートボーダーが憧れるハイパフォーマンスウェーブのローワートラッセルズ、初級者から中級者まで楽しめるミドルズやチャーチ、そして南端にはマリブと並んでロガーの聖地と称されるサンオーが連なっている。ショートボードで育った僕にとって、サンオーの存在は、正直なところアメリカに来るまで知らなかった。しかし、周囲のサーファーから繰り返し勧められるうちに、その期待はすこしずつ膨らんでいった。

波が良ければ、わずか10秒足らずでパドルアウトできるロケーションが魅力

州立公園として管理されているサンオーは、カリフォルニア州内の州立公園の中でも屈指の来場者数を誇る。週末ともなれば、開園1時間前に到着しても、すでにゲート前には長い列ができている。それもそのはず、サンオーの魅力はサーフィンだけに留まらないからだ。ポイントの目の前に駐車できる敷地内には、サーファーが求めるすべてのものが揃っている。良質な波、パームツリーが点在する独特の景観、バレーボールコートやピクニックテーブル。シャワーも景観を損なわぬよう笹で囲われ、どこか素朴な風情がある。バンライフを送る僕らにとって、ここはまさに理想郷だった。サンオーでは、海に入る時間だけでなく、その後に過ごす時間までもが、サーフィンの一部なのだ。

人気の縦列駐車エリア。朝イチでこの場所を確保するのが早起きのモチベーションとなっていた

州立公園はトータル10日以上使用するのであれば年間パスを購入するのがオススメ

笹で囲われたシャワー。景観を保つと共に周りからの視線を遮る。ボードラックも設備されているサーファーフレンドリーな公園

西海岸といえばサンセット! 乾いた空気の中、毎日のように太陽が水平線へと沈んでいく

サンオーはマリブと同様、1950年代から地元サーファーに愛されてきた場所だ。ただし、決定的に異なるのはその空気感である。シェアライドの精神が今も自然に息づき、ラインナップには穏やかな時間が流れている。メインのピークは大きく3つに分かれているが、横に広がるスポット全体は、沖からインサイドまで波の割れるフィールドが非常に広い。それぞれが自分の居場所を見つけ、思い思いのペースで波に乗っていく。メローにブレイクし、インサイドまで乗り継げる波は、まさにロングボーダーの楽園だった。
数日間、朝から晩までサンオーで波に乗ったある日、僕らはローワートラッセルズまで歩いてみることにした。プロの映像では、電動バイクで向かったり、線路を渡って歩いていくシーンが印象に残っている。世界中から、パーフェクトな波を求めてトッププロが集まる場所。Aフレームで左右どちらにも行けるものの、ピークは基本的にひとつ。その中で波を掴むのは、至難の業だろうと覚悟していた。
「少しおこぼれをもらえれば、それで十分」そう思ってパドルアウトしたが、結果はいい意味で裏切られた。皆がセットのベストウェーブを狙う一方で、サイズのない波や形の整わない波には、ほとんど目が向けられない。そのおかげで、わずか20分ほどの短いセッションにもかかわらず、驚くほど多くの波に乗ることができた。この日は風向きこそ良くなかったが、それでも波の形は申し分ない。トップからボトムまで規則正しくブレイクする波を前に、ローワーがなぜこれほどまでにサーファーを惹きつけるのか、その理由がすぐに腑に落ちた。

ローワートラッセルズへ向かうにはこの線路を渡る。米軍の管理下におかれていたため建造物が少なくアクセスが大変

仕事するもよし、ぼーっとするもよし、昼寝するもよし。ポイントの目の前で生活する日々は夢のようだった

サンオーのメローで穏やかな時間と、ローワーに漂う張り詰めた緊張感。わずか数キロの海岸線の中に、これほど対照的な世界が共存している場所が、果たして他にあるだろうか。映像や地図だけでは決して伝わらない、この海岸線の本当の価値。それは、パドルアウトし、肌で感じて初めて理解できるものだった。


古川良太(サーファー/鮨職人)
20代の3年間、カナダ、オーストラリア、インドネシア、中南米の波を求めて旅を重ね、サーフィンに明け暮れる。帰国後は鮨職人として6年間修行し、日本文化と真摯に向き合う日々を送る。現在は妻と共にヴァンライフを送りながら、カナダからアメリカ西海岸をロードトリップ中。旅の様子はYouTube「アーシングジャーナル」で定期的に公開。
InstagramYouTube

Ride of a Lifetime Arcive

TAG #####