• 【連載:Ride of a Lifetime】カナダからカリフォルニアまで、ヴァンで旅するサーファーの旅の記録_Episode 9/和而不同
  • 2025.12.24

サーフスタイルの多様性は、カルチャーの深さと比例する

サーファーなら誰もが知っている最低限のルールといえば、前乗りだろう。タブーとされているその行為すら、ここマリブではスタイルの一部のように錯覚してしまい、自分自身を疑った。基本的には、ここでもほかの人の波を邪魔しないのがルールだし、誰もが前乗りし合う無法地帯というわけではない。秩序は、確かに保たれている。だが、それにしても前乗りの数が圧倒的に多かった。しかしそれは、マリブの波の性質や、そこに集まる人の多さゆえの、一種の戦略なのではないかとも思えてくる。

ビーチから見るとサーファーがただ横に広がってるように見えるが、実はピークに向かって列をなしている

サイズが一定以上になると、ファーストピークから手前のピアまでキレイにブレイクする

海岸線は弧を描き、南西に向いている。歴史的にも有名なFirst Pointをはじめ、Second、Thirdと呼ばれる連続するポイントは、リーフや砂の形状が波を右へと導くため、ライト方向オンリー。ロングボード向きの、ゆったりとしたブレイクが長く続く。
ピークから静かに波が立ち上がると、リーフに沿って「崩れる」というよりも、「剥がれ落ちる」という表現がふさわしいほど、リップが美しくブレイクしていく。そんなライト方向のポイントブレイクにもかかわらず、ロサンゼルスの都市部から近いこともあり、集まるサーファーは数知れない。ピークには、ノーリーシュでスタイリッシュにノーズを決めるベテランサーファーがいる一方、手前には初心者サーファーもいる。混雑のピーク時にはカオスになるが、それでもマリブの波にこだわり、足繁く通うサーファーが後を絶たない。そんなポイントで波に乗るには、それなりの戦略が必要だ。

朝はまだ人が少ないからオススメだが、太陽が昇り周囲が明るくなるとすでに50人以上のサーファーがいた

ハイウェイ沿いに路駐してクルマから眺めるお気に入りの景色

週末になるとサーファーに限らす人が集まり、ビーチが賑わう


このポイントを俯瞰的に観察していると、それぞれの波への向き合い方が見えてくる。ピークでセットの波を狙う人もいれば、小さくても本数を乗れる手前で待つ人もいる。早朝、まだ日が昇る前の真っ暗な中でパドルアウトする人もいれば、日が沈んだ後、桟橋の灯りを頼りにサーフィンをする人もいた。それぞれが、いかに多くの波に乗れるかを考え抜いた末のスタイルなのだろう。
その中に、前乗りをスタイルとして見出してしまうことには驚かされた。後ろから乗ってきているのを目視しながら、それでもテイクオフする。これまで自分が信じてきたサーフィンの常識は覆され、この現実を飲み込むには時間がかかった。飲み込むくらいなら、いっそここでのサーフィンをやめたいと思うほど、心を乱された。それでも、自分が意図的に前乗りをするのは、やはり違う。僕はマリブの洗礼を受けたのだ。

この壁の前のサーフボードはマリブのアイコニックフォトだ

それでも、ここには人を引きつける魅力がある。マリブの波は、語りかけてくる。「焦るな」ここでは、時間が伸びる。一歩足を前に出すと、世界がゆっくりと動き出す。ボードは、線路の上を走る列車のように、迷いなく進んでいく。呼吸とともに波とシンクロし、一種のトランス状態に入った僕は、ただその瞬間を楽しんでいた。気がつくと、桟橋の横まで乗ってきていた。マリブの海で何度も考えさせられたのは、正解がひとつではないという事実だった。ルール、マナー、スタイル。そのどれもが間違いではなく、この場所の密度と歴史の中で、形を変えながら共存している。受け入れ難さと、美しさが同時に存在する海。その矛盾を否定せず、波に身を委ねたとき、ようやくこの場所の輪郭が見えた気がした。長く伸びるライトのフェイスを静かに滑りながら、雑念はいつの間にか後ろへと流れていく。残ったのは、ただ「今、ここにいる」という感覚だけだった。
マリブは教えてくれた。スタイルとは主張ではなく、積み重ねられた選択の結果なのだと。夕暮れ時、薄ピンク色に染まる空を見上げながら、その答えがゆっくりと腑に落ちていった。

ビーチでゆっくり過ごしながら、波が良くなったらさくっと入れる環境が魅力


古川良太(サーファー/鮨職人)
20代の3年間、カナダ、オーストラリア、インドネシア、中南米の波を求めて旅を重ね、サーフィンに明け暮れる。帰国後は鮨職人として6年間修行し、日本文化と真摯に向き合う日々を送る。現在は妻と共にヴァンライフを送りながら、カナダからアメリカ西海岸をロードトリップ中。旅の様子はYouTube「アーシングジャーナル」で定期的に公開。
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