• 【連載:Ride of a Lifetime】カナダからカリフォルニアまで、ヴァンで旅するサーファーの旅の記録_Episode 3/諸行無常
  • 2025.10.01

一瞬の波に心を重ねる旅

打ち寄せる波は常に移り変わり、同じ波は二度と訪れない。波があれば海へ、なければ山へハイキングやキャンプを楽しみに行く。場所に囚われることなく、その時々で好きな場所へ向かう。制約から解き放たれ、自然に身を委ねる自由こそがヴァンライフの醍醐味だ。そこで感じるのは一期一会。同じ瞬間は二度とない。

青空、岩山、氷河、湖、そしてヴァン。ロードトリップに欠かせないすべての要素が揃った夢の景色。どこを切り取っても、絵本の中にいるようだった

カナダ西海岸のサーフスポットは大きく3つに分けられる。トフィーノ、ソンブリオ、そしてジョーダンリバー。冬のハワイにうねりを運ぶ嵐は太平洋を越え、カナダにも届く。日本の台風と同じく、狙うべきは直撃する3〜400キロ沖にいて、風の影響は少ないが波長の確かなスウェルか、嵐が去った後にやってくるバックスウェルだ。
トフィーノはスウェルを遮る島がほとんどなく、太平洋のエネルギーをそのまま受け止める。ソンブリオとジョーダンリバーはオリンピック半島との海峡にあり、北西からのうねりが欠かせない。玉石のポイントブレイクでコンディションが整うと、まるでウェーブプールのように規則正しく波が割れる。
僕が訪れたのは夏。基本的には小さな波が続いたが、ソンブリオで奇跡的にサイズのある波を当てることができた。それは、わずか3時間だけの出来事だ。朝の段階では小さかった波が、1時間後にはセット頭半まで上がっていた。波を目にした瞬間、口角が上がり、鼓動が速くなる。波情報を見ていなかったからこそ、予期せぬ興奮は倍増した。急いでウェットに着替えてパドルアウトし、ラインナップに向かう。力強く押し出されるテイクオフに久しぶりのパワーを感じる。サーファーの数が少ないカナダでは、良い波の日でも十分に波をシェアできる。これも大きな魅力だろう。だが楽しい時間は永遠には続かない。昼過ぎには、すでにサイズダウンしていた。

小さい日のソンブリオ。セット腹のきれいなレギュラーが割れていたが、サーフィンしているのは僕を含めて2人だけ。カナダは今でも、極上の波を思う存分堪能できる

サーフスポットの目の前のビーチはキャンプ場。波を眺めながらバーベキューや宿泊もできる、自然好きにはたまらない場所だ

今回の旅はサーフィンが主目的だったが、どうしても訪れたかった場所がある。バンフ国立公園だ。道の両脇には天地を突き破るような岩山がそびえ、その頂に積もる氷河から絶えず雪解け水が流れ落ちる。やがて一箇所に集まり、この世のものとは思えないほど鮮やかなエメラルド色に染まる。果てしない山脈の谷間を貫く一本道は、まるで異世界へと続いているかのようだった。人間の尺度を超えた壮大な自然の中で、自分は迷い込んだちっぽけな旅人にすぎないと痛感させられた。

バンフからジャスパーへと続く一本道。標高2000メートルを超える岩山に囲まれながら走る道は、人生で一番の絶景ドライブだった

無加工でも絵の具を垂らしたように鮮やかなエメラルドブルー。氷河が削った岩の粉が水に浮かび、光を散乱させることでこの色が生まれる

しかしどれだけ山や森に浸ろうと、塩水が恋しくなるのがサーファーの宿命だ。遠回りをしながらも、次の海を求めてアメリカ国境を目指す。入国には少し緊張したが、「日本人」というブランドと「ハネムーン」という魔法の言葉が背中を押し、難なく通過できた。
そしてたどり着いたのは、初めてのアメリカ本土。カナダで触れた人々の温かさに心を和ませながらも、未知の土地オレゴンへと気を引き締めて進む。まだ見ぬ波、景色、人との出会いを思うと、自然とアクセルを強く踏み込んでいた。

オレゴンの海岸線によく見られる海から突き出す岩。かつては陸続きだったものが、長い年月をかけて波や風に削られ、硬い部分だけが残っている


古川良太(サーファー/鮨職人)
20代の3年間、カナダ、オーストラリア、インドネシア、中南米の波を求めて旅を重ね、サーフィンに明け暮れる。帰国後は鮨職人として6年間修行し、日本文化と真摯に向き合う日々を送る。現在は妻と共にヴァンライフを送りながら、カナダからアメリカ西海岸をロードトリップ中。旅の様子はYouTube「アーシングジャーナル」で定期的に公開。
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