• 【連載:Ride of a Lifetime】カナダからカリフォルニアまで、ヴァンで旅するサーファーの旅の記録_Episode 1/原点回帰
  • 2025.09.03

10年ぶりのヴァントリップ、再びトフィーノへ

時は進んでいくが、時計の針が同じところに戻るように、僕もいつの間にか同じ場所へ戻ってきた。そのタイミングがちょうど10年という節目だったのは、神が意図的に仕組んだ遊び事なのだろうか……。
前回の旅を終えた時点で、遅かれ早かれこのヴァントリップのタイミングが訪れることは分かっていた。鮨修行の区切り、妻との結婚、そして20代最後の年。タイミングとしては、間違いなく“今しかない”と思えた。

この6年間、誰よりも長い時間を共にした師匠。この人についていかなければ、鮨修行は道半ばで終わっていたかもしれない


“今”に集中しながらも、照準は常に数年先に合わせていた。周囲には「また旅に出る」と口にしていたし、妻との初デートの時にもそう話していたらしい。本人は覚えていないが、妻によると初めは冗談半分で聞いていたものの、僕を知るうちに「本気なんだ」と実感したのだという。
交際1年で同棲を始め、修行の日々を最も近くで支えてくれたのも妻だった。旅のために一緒に貯金をし、休日は家でゆっくり過ごすか2人でサーフィンに出かけ、できる限りお金を使わない生活を続けた。妻もサーファーで旅行好きだったから、旅には前向きだった。僕らを引き寄せたのもサーフィンのおかげだった。とはいえ、安定した生活を捨てて知らない世界へ飛び込むのは相当な決断だったはずだ。それでも一緒についてきてくれた妻には頭が上がらない。2年間で貯めた資金は300万円。決して多い額ではないが、限られた中でどこまで攻められるか――そんな挑戦も含まれていた。

奄美大島でのプロポーズ。梅雨の時期で雨続きだったが、最終日に晴れてサプライズ成功!


旅の最初にカナダを選んだのは、いくつか理由があるが、一番は僕にとって馴染みのある土地だからだ。いざとなれば頼れる人もいた。まったく知らない場所でヴァントリップを準備するよりも安心感があったし、成功のイメージも湧いていた。

今は登れなくなってしまったトフィーノを代表するハイキング「ローンコーン」。 中央に見えるのがタウンで、自然に囲まれて生活しているのがわかる

そして僕らが手に入れた憧れのマイホームは、1988年製のダッジヴァンだった。クルマ探しは心が躍る一方で、焦りもあった。カナダは個人売買が活発で、一軒一軒直接見に行く必要がある。僕らはキャンピングカーを4日間レンタルし、あらかじめ決めていた日程で候補のオーナーを回った。
外観、内装、エンジン、価格――すべてを満たす車を限られた時間で探すのは難しいと思っていた。もし見つからなければ、貯金は減る一方だった。だが、初めてそのヴァンを見た瞬間、“この車だ”と直感した。他にも見る予定があったが、すぐにキャンセルした。走行距離は不明、スピードメーターは壊れていて、ハンドルは重く、エアコンもない。欠点だらけの車に、僕らは夢を託すことに決めたのだ。

外観が特にお気に入りで、運転していると声をかけられることもしばしば。燃費はリッター4キロで、とにかくガソリン代がかかる

日本を離れてからも、多くの人に助けられた。移動式マイホームを完成させるため、留学時代にお世話になったホームステイの家族のもとに2週間滞在させてもらったこともあった。偶然にもそれはイエス・キリストの復活祭の日と重なり、家族みんなが僕らの旅の無事を祈ってくれた。
“人は1人では生きていけない”――安定した生活を捨てた代わりに、僕は人の温かさを強く感じるようになった。

カナダのホームステイ先。食にこだわるファミリーで、みんな料理が上手! 滞在中にお鮨をふるまった

カナダと聞いて、何をイメージするだろう。メープルシロップや寒さくらいしか思い浮かばない人も多いだろう。しかし僕は知っている。この国にはサーフィンの楽園があることを。日本の27倍もの国土を持ちながら、人口はわずか4200万人弱。手つかずの大自然が多く残る西の果てに、サーファーたちが“コールドハワイ”と呼ぶ場所がある。

――トフィーノ。

この場所を旅のスタートに選びたかった。全てはここから始まったのだから。新しい10年のチャプターを開く旅も、またここから始める必要があった。

トフィーノでサーフィンといえば「コックスベイ」。ウネリの反応が最もよく、ショートからロング、初心者も楽しめるビーチブレイク


古川良太(サーファー/鮨職人)
20代の3年間、カナダ、オーストラリア、インドネシア、中南米の波を求めて旅を重ね、サーフィンに明け暮れる。帰国後は鮨職人として6年間修行し、日本文化と真摯に向き合う日々を送る。現在は妻と共にヴァンライフを送りながら、カナダからアメリカ西海岸をロードトリップ中。旅の様子はYouTube「アーシングジャーナル」で定期的に公開。
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