• 【シングルフィン特集】MATT CHOJNACKI_歴史から未来を模索する稀有なサーファー
  • 2025.08.16

少年時代からサーフィン史に接し、1950 年代のシングルフィンで当時のスタイルを再現するマット・チョナスキー。今年の冬、偉大なる先人たちに倣いノーリーシュでハワイの大波にチャージした。


SALT..(以下、S):この冬、ハワイに行ってたよね。ノースショアはどうだった?

Matt(以下、M): 12月からサイズが上がるのを待ち続けてたんだ。幸運にも、ハワイアンエアラインのチケットは何度でも変更可能だったため、毎日ドキドキしながら波を待っていた。サンセットではリーシュをつけずに入ったよ。何度も砂浜まで泳ぐ羽目になったが、一度ワイプアウトすると平均45分は泳ぐ。パイオニアたちの苦労と挑戦、その偉大さを実感できた。

S:ワイメアでのチャレンジは衝撃的だったと聞いたけど?

M:そうだね。使用したのは’67年のディック・ブリューワーの9’9”レプリカガン。ショートボード・レボリューション直前のデザインで、ロングボードガン的な特性を持ったシングルフィン。あと、12フィートのグライダーも使用した。これはシドニー・ブルックベールのサーフミュージアムに展示されている、オーストラリアの歴史的ビッグウェーバー、ボブ・パイクが削り、最大級の大波を乗ったもの。ブルックベールはサーフインダストリーの中心地で、シェーン・サーフボード、ベネット・サーフボードはいまも健在している。古いKEYOやホットバタード、スコット・ディランの跡地を巡るのは楽しい。何度も通い、ついにレプリカを手に入れたんだ。先人たちの体験を追体験することで、学ぶことは多い。それから、ロージャー・エリクソンの娘エミーが、10フィートのガンを貸してくれた。50年前のボードのレプリカでワイメアを滑ることには、特別な意味がある。この40年間で、「エディ・アイカウ・ビッグウェイブ・インビテーショナル」はわずか11回しか開催されていない。この大会を観ることは叶わなかったが、同じポイントでこれまで経験できなかったことを実践できたのは大きな収穫だった。オーストラリアにはワイメアと比較できるビッグウェイブポイントは存在しないが、ロングリーフのアウトサイドやベルズ、マンリーのデッドマンなど、大波に挑戦できるポイントはいくつかある。

鍛え抜かれた体躯の理由は、「毎日サンセットで泳いでいたからさ」と笑顔で答える。WLTに参戦しながらコメンテーターとしても活躍

S:今から25年ほど前、KEYOサーフボードのジョン・ギルが「子供ながらクラシックスタイルのロングボードを乗りこなす天才がいる」と紹介されたが。

M:7歳の頃、学校の先生は授業の合間にサーフィンの話しをしてくれた。図書館には土地柄もあってサーフィン関連の本が豊富に揃っていた。例えば「ナット・ヤング」、「ミジェット・ファレリー」、「マーク・ウォーレンのサーフィンアトラス」などを、夢中になって読み漁った。ノーザンビーチには、ミジェット・ファレリーやボー・ヤング、キャロル兄弟、クリス・デビッドソン、ネーザン・ヘッジ、ダミアン・ハードマン、バートン・リンチ、サイモン・アンダーソンといった伝説的なサーファーが数多くいる。さらに、ケリー・スレーターやマーティン・ポッターも定期的に訪れており、世界のトップサーファーを間近で見る機会に恵まれた。スタイルは異なるが、オジー・ライトのアート性は際立っていた。私の双子の姉妹はバレーをしているが、サーフィンとバレエはどこか似ている気がする。フィル・エドワーズ、ミッキー・ドラ、テリー・フィッツジェラルド、バリー・カナイアウプニ、ジョエル・チューダー── 彼らのサーフィンは、エレガントで力強いバレリーナのようだ。どちらもアート性を追求している点が共通する。サーフィンは単なるスポーツではなく、アートだ。サーフボードの進化も目まぐるしいが、その基本はシングルフィン。すべてはそこから始まった。

S:最近、シングルフィンに乗る人が増えているけど?

M:シングルフィンが再び脚光を浴びているのには理由がある。現代社会は複雑化しすぎて、選択肢が増えすぎた。その反動の「メイク・イット・シンプル」の精神で、シングルフィンへと回帰する流れが生まれていると思う。トラディショナルなロングボードとシングルフィンには共通性がある。コンペティション用のボードとは異なり、ライディングを通じて海との繋がりを深く感じることができるんだ。

スタイルこそすべて! ライディングのみならず、ファッションやクルマに至るまで、トラディショナルブームの火付け役である

S:ノーズライドに適したフィンは?

M:ベースが広く厚みがあるもので、ボードの後方にセットするのが基本だ。テールにスープが覆い被さるため、安定性が重要となる。グリノー・フィンの影響もあり、チップ部分に柔軟性を持たせることで、水中での重力に対する反発力を得ることができる。但し、この特性の好みは、サーファーによって異なる。できるだけ多くのフィンで試すことも、楽しみのひとつだ。

S:話は変わるが、なぜ’50年代から’60年代にこだわるの? アレックス・ノストやサイラス・サットンがカリフォルニアから訪ねて来ていたが、互いに影響しあってる?

M:サーフボード以外も’50年代のモダンカルチャーが好きで、彼らも同じ志向があった。サーフミュージックという言葉が生まれる前のロックンロールなファッションやライフスタイルには、共通点が多い。不思議なことに、当時のサーファーたちも同じようなファッション、クルマ、生活様式を好んでいた。ホットロッドやバイク、ユースカルチャーは互いに影響を与え合っている。父が車の修理工場を経営していたこともあり、古いクラシックカーの手入れ方法も学んだ。エンジンを分解したり、板金塗装をしたりしているうちに、「こんなクルマで海に行けたらクール」と思いやってみた。実際かなり目立ったけど、途中で故障し路上で修理することも多かった。サーフボードもヴィンテージカーも手間はかかるけど、モダンを理解するのに欠かせない知識を得ることができる。

オールドタイマーたちから英才教育を受けたマットは、次の世代を育てている。誰もいない沖で一人波待ちする時間は、ある種の瞑想状態と例える

S:最後に、これから目指す方向性は?

M:スクールでも提唱しているが、「アート・オブ・トリム」を進めていきたい。そのために、ヨーガやマーシャルアーツ、太極拳なども取り入れている。“トリム”の意味は人それぞれで異なるが、波のカールの直前で動かず静止した状態で、速く・滑らかに進むこと。まるで禅のような心境に至る感覚だ。これは、静かな熟達の境地とも言える。ロングボードやトラディショナルなサーフィンでは、トリムこそが最も基本的な波との接点とされている。派手ではないが、トリムなくして海とのコネクションやパワーを感じ取るはできない。だからこそトリムの重要性を伝えていくことに、注力していきたい。

マット・チョナスキー
1988年生まれ、シドニー出身。幼少期よりレジェンドサーファーたちと交流し、クラシック・ロングボードで頭角を現す。独自のスタイルを築きながら、ビッグウェイブへの挑戦や、WLTコンテストの参戦など幅広く活躍。


photography _ courtesy of MATT CHOJNACK Collection text _ Tadashi Yaguchi

>>SALT...#04から抜粋。続きは誌面でご覧ください

「SALT…Magazine #04」 ¥3300
サーフィン、暮らし、生き方、そして思考をより本質的なものへと回帰。シンプルで持続可能な在り方を追求することこそが、真の豊かさにつながる。

<Contents>
⚪︎Burleigh Single Fin Festival
⚪︎未知なる領域へ̶̶ サーフィンの新境地
⚪︎シングルフィンを愛する10人のインタビュー
⚪︎STILL AND TRUE
⚪︎笹子夏輝 ~カリフォルニア・スタイル巡礼の旅
⚪︎サーフィンによるマインドセットのススメ
⚪︎Stories Behind the Waves
⚪︎今を生きるサーファーたちのダイアログ
⚪︎世界の果て、南ポルトガル・サグレス
⚪︎Column _ Miyu Fukada

オンラインストアにて発売中!

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