サーフィンは、自然との深い対話を楽しむ文化だ。波の動き、太陽の光、その中で生きるサーファーたち。そこには、瞬間ごとに無限の可能性が広がっている。その可能性を映し出すのが、フィルマーの仕事だ。映像は単なる記録ではなく、彼らの“フィルター”を通して生まれる表現であり、心象風景を形にする、繊細なプロセスでもある。彼らの頭の中には、どんなビジョンが広がっているのか? それぞれの視点を通じて、サーフィンの魅力をどう表現しているのか? 6人のフィルマーの情熱と創造の世界に、少しだけ足を踏み入れてみた。
サーフィンとストリートカルチャー、そして仲間との深い絆を描くHefty Beef。互いを認め合い、ともに歩む。その想いが結実した映像には、“ラブ&ピース”の精神が刻まれている。
近年、SNS やNobodySurf などのプラットフォームで頻繁に目にするフィルマーネーム"Hefty Beef"(ヘフティビーフ)。その本名は森脇海。彼がこのユニークな名前を使うようになったのは、ある日友人たちとオンラインゲーム「Among Us」をプレイしていた際に、ランダムに割り当てられた名前が“Hefty Beef”だったことに由来する。カナダ人の友人にその意味を尋ねると、「分厚くてジューシーなステーキのような肉って意味だ!」と説明され、その響きとユーモラスな意味が気に入り、以来フィルマーネームとして使用している。
彼が映像制作の世界に足を踏み入れたきっかけは、現在の奥さんとの出会いにある。当時、彼女が映像を撮影していたことがきっかけでカメラに興味を持ち始めると同時に、サーフィンにも傾倒していった。そして、牧之原でローカルサーファーの原田空雅と出会う。この出会いが彼の人生における大きな転機となった。原田の独創的でスタイリッシュなサーフィンを目の当たりにしたとき、「この映像を残さなければならない!」という強い使命感に駆られ、すぐにカメラを購入し撮影を開始した。周囲にフィルマーがほとんどいなかったことも後押しし、次第に映像制作の道へ深くのめり込んでいった。
Hefty Beefが目指しているのは、単なるサーフィン映像の制作ではなく、「自分がかっこいいと思うものを形にすること」。彼の映像にはサーフィンとストリートカルチャーが融合した独自の美学が反映されている。意外なことに、彼はサーフィン映像をあまり観ず、むしろスケートボードや他のカルチャーからインスピレーションを得ることが多い。特に影響を受けたのが、シュプリームのクリエイター、ウィリアム・ストロベック。その独特の視点や編集手法に魅了され、それらのエッセンスを自身の作品にも取り入れている。



撮影時に最も気を配っているポイントを尋ねると、「光の角度と海の色」と即答した。太陽の位置や光の入り方、海がどのような色を映し出すかを慎重に観察しながら撮影を進める。この技術は、スノーボードや山での撮影経験を通じて学んだという。「太陽の角度次第で、光の陰影や色の出方が劇的に変わるので、時間と場所の選定には特に気を遣っています。ただ、こだわりすぎて時間が足りなくなり、『あの時、こうしておけばよかった』と後悔することも多いですね」。この悩みはフィルマーだけでなく、クリエイターなら誰しもが抱えるものかもしれない。
編集作業で特にこだわっているのは「音楽」。映像の構図やアングルも重要だが、音楽が作品の印象を決定づけると語る。クラブやライブに足を運び、さまざまなジャンルの音楽を聴くことで、自身の作品に最適なサウンドを探し出す。「ヒップホップ、ジャズ、ダンスミュージックなど、特定のジャンルに縛られず、好きなものをミックスして形にしています。万人に伝わらなくてもいい、自分の中で『これだ!』と思うものを常に模索しています」。
映像制作を始めて3~4年ほどのキャリアだが、創作の過程で行き詰まることも少なくない。「最近も自分の映像がマンネリ化しているのではないかと悩んでいました。でも、友人と遊んだり環境を変えることで頭をリフレッシュすることができました」。彼にとって新たなアイデアは、日常の遊びやリラックスした瞬間から生まれることが多いという。「仲間と遊んでいるときに感じたことがヒントになったり、逆に1人でリラックスしているときに『これだ!』と思いつくことがよくあります。正解かどうかは分からないけど、流れに任せて進んでいきたいですね」。
SNS の評価や他人の意見には左右されず、「自分が納得できるか」を最も大切にしているHefty Beef。“バズるリール”を作ることには関心がなく、ただ純粋に「自分が本当に表現したいこと」を追求し続けている。その姿勢は、彼が目指す映像制作の本質「アートであり続けること」を体現している。

昨年、原田空雅をフィーチャーしたフィルム『MAD SKIING』の上映会が原宿のアートギャラリーで開催され、そのPR 映像が表参道の交差点にあるビルの巨大モニターに映し出された。東京の中心地で自分の作品が流れるという経験は、CGにも初挑戦した彼にとって、大きな学びとなった。
Hefty Beef の最終目標はまだ明確に決まっていない。しかし今考えているのは、「サーフィンの技術の上手い下手に関係なく、自分がかっこいいと思うサーファーをピックアップし、世界に発信し、認めてもらうこと」。そのためには、被写体であるサーファーの個性や魅力を最大限に引き出すことが自分の役割だと考えている。
「自分の映像とは何か、次に何を作るべきか――それを常に考え続けることが大切。新しいアイデアや表現を探し続ける姿勢は、これからも変わらないと思います」
彼が追い求めるのは、単なる映像作品ではなく、ミックスカルチャーの表現。サーフィン、ストリート、音楽、それらを融合させ、一つの作品として昇華させる。その探求はまだ始まったばかりだ。


静岡県出身。横乗りの世界に魅了され、サーフィン、スケート、スノーボードに傾倒。サーフィンとストリートカルチャーの融合を追求し、独自の視点で一瞬の美しさを切り取る。多数のメディアに取り上げられる注目のフィルマー。@hefty_beef
text_Nachos
>>SALT...#04から抜粋。続きは誌面でご覧ください
TAG #Hefty Beef#SALT...#04#STORIES behind THE WAVES#サーフフィルム#森脇海
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