#サマラ・クリブ

  • 【特集:Ocean People】海から始まるストーリー/29_サマラ・クリブ
  • 2026.03.02

海と繋がり、自分の中の好きや小さなときめき、そしていい波を追い求めてクリエイティブに生きる世界中の人々、“Ocean People”を紹介する連載企画。彼らの人生を変えた1本の波、旅先での偶然な出会い、ライフストーリーをお届けします。

Profile
Samara Cribb サマラ・クリブ
ゴールドコーストを拠点に活動するサーファー/クリエイター。海とともに育ち、マーケティング、フリーランス、スーパーヨットでの仕事を経て、あらためて“創ること”を軸に据えた。現在は、自身のクリエイティブな世界をさらに広げている。

あなたのことについて教えて

生まれ育ちは、バイロンベイの少し南にあるエバンズヘッドという小さな海沿いの町。のんびりとしたスローな空気が流れる、静かな田舎町。三姉妹の末っ子で、男の子がいなかったから、父にとって私たちは「サーフィンをさせるしかない存在」だったんじゃないかな(笑)。
毎週末のようにサーフィンの大会へ連れて行かれ、気づけば自然とサーフィン中心の生活ができあがっていた。まだ幼くて深く考えることもなく、ただ遊びの延長のような感覚でやっていたのを覚えている。三姉妹みんな一度はサーフィンをしていたけれど、続けたのは私だけ。父にとっては、きっと最後の希望だったんじゃないかな。今でも会うたびに「まだサーフィン続けてるのか?」って聞かれる。
子どもの頃は自転車で海へ向かい、毎日暗くなるまでサーフィンしてた。町はとても小さく、誰もが顔見知りで、道を歩けば何人もの人に声をかけられる環境。どこへ行っても誰かが見守ってくれているような安心感があった。その空気が大好きだった。
高校を卒業して20代に入る頃、少し物足りなさを感じるようになり、「もっとエネルギーがあって、刺激のある場所へ行きたい」と思い、ゴールドコーストへ引っ越したの。そして、いまはここが拠点。
大学を卒業してから、マーケティングやクリエイティブ、コンテンツ制作の分野で仕事している。大学では幅広く学べそうなビジネスを専攻し、自然な流れでマーケティングの道へ進んだ。19歳のとき、地元のスキンクリニックでSNSやコンテンツ制作を任せてもらうチャンスをもらった。当時は完全にゼロからのスタートで、ハイパーリンクの意味すら分からなかった。でもオーナーが一からすべて教えてくれて、その経験が今の土台になっている。20歳のとき、「自分でもできるかもしれない」と思ってフリーランスとして独立。周囲から「それは仕事にならない」と言われながらも少しずつクライアントが増え、気づけばフルタイムのような働き方になっていた。だけど22歳のとき、パソコンに向かい続ける生活に物足りなさを感じ始めて。もっとリアルなつながりや新しい刺激が欲しくなり、思い切ってマーケティングの世界を離れて、スーパーヨットの仕事へ飛び込んだ。そこで気づいたのは、「創ること」は自分にとって欠かせないものだということ。忙しさの中でクリエイティブな時間がなくなると、心のどこかが少しずつ削られていく感覚があった。いまはデザインをしたり、新しいアイデアを形にしたりする日々に戻り、心から満たされている。

サーフィンを始めたきっかけ

サーフィンを始めたのは、地元のエバンズヘッド。正直に言うと、サーフィンをしなかったら他にやることがあまりなかった、というのも理由のひとつ。父はいつも海に連れて行ってくれて、彼の友人たちもみんな私を知っていて、「また明日も海でね!」って声をかけてくれる。そんな環境の中で、自然とサーフィンが当たり前になっていた。そこから、地元や近くの大会に出るようになった。女の子同士でサーフィンをする感覚は、ゴールドコーストに来てから初めて知った。それまでは男の子たちと一緒に大会に出たり、一人で海に入ったり、父とサーフィンすることがほとんどだったから。ゴールドコーストはまったく雰囲気が違う。女の子のサーファーが自然に主役になれる場所、そんな印象。メインはロングボードで最近はミッドレングスにも挑戦している。少し前にインドネシアへ行ったときも、ミッドレングスだけを持っていった。
これまでいろいろな場所で波に乗ってきたし、これから行きたい場所もたくさんあるけれど、世界で一番好きなのは、クーランガッタのレインボーベイ。家から5分の場所に、世界で一番好きなブレイクがあるというのは本当に幸せなことだと思う。オーストラリア中を旅しながらサーフィンもしたし、西オーストラリアの海もとても美しかった。でも、ロングボーダーとして選ぶなら、やっぱりレインボーベイ。透き通った水、海へ向かう道から見えるスナッパーロックスからキラまでの景色。サンライズやサンセットの時間、海がやわらかな色に溶けていく瞬間。胸がきゅっとなるような、現実とは思えない景色。
もう一つ特別なのは、ロンボク島にあるエカスという小さなブレイク。次に行ってみたいのはモロッコとコスタリカ。

ゴールドコーストでの暮らし

小さな町で育った私にとって、大都市のシティライフはどこかしっくりこなかった。今でも自分の中には、あの小さな町の空気がちゃんと残っている気がする。少しストレスを感じた日は、ただ静かにビーチに座っていたくなる。地元を離れたばかりの頃は、今までにない忙しさや刺激を求めていた。でも時間が経つにつれて、本当の落ち着きや幸せは、静かな海辺で過ごす時間の中にあるんだと気づいた。ゴールドコーストのいいところは、その両方があること。仕事のチャンスや新しい出会いがある一方で、ひとりでビーチに座ってコーヒーを飲みながらぼーっとできる静けさもある。そのバランスがちょうどいい。
ここに住んでいる人たちは、「働くために生きている」というより、「ちゃんと暮らすためにここにいる」という感じがする。ブリスベンやシドニーへ行くと、都会のエネルギーに圧倒されることもあるし、人生が仕事中心に回っているように見えることもある。でもここは、平日の朝でも海沿いを歩けば、ランニングしている人、トレーニングしている人、ビーチでのんびりしている人がいる。その景色を見るだけで、自分の神経もすっと整っていく。自然と深呼吸したくなるような場所。

海、自然との関係

サーフィンは、私にとってある意味“瞑想”みたいなもの。正直、静かに座ってする瞑想はあまり得意じゃない。頭の中はいつも忙しいし、「もっと上手くなりたい」とかいろいろ考えてしまう。でも海に入ると、不思議と余計なことが消えていく。2時間くらい海に浮かんで、誰とも話さず、ただ波を待つ時間。それは自分と海だけの時間。すごく静かで、でもちゃんと生きている感じがする。
海に入って後悔したことは一度もない。たとえ思うように波に乗れなかった日でも、海から上がる頃には必ず「入ってよかった」と思えている。海は、ほかではなかなか得られない深い静けさをくれる。同時に、海の力を絶対に侮らないようにしている。特に海のそばで育っていない人や初心者の人は、そのパワーを甘く見てしまうこともあると思う。大きな波、カレント、潮の流れ、風。完全に自然のエレメントの中にいるということ。
「今日はコントロールできてる」って思った瞬間に、まるで海が「考え直しなさい」と言わんばかりに、一瞬で打ちのめされることもある。だから自分は、海の“上”に立っている存在ではなく、海の“下”にいる存在。海に入るたびに、謙虚さを思い出させてもらっている。

人生に欠かせない3つのもの

一つ目は、ビーチや海のそばにいること。どんなに条件がよくても、そこに海がないなら選ばないと思う。それくらい、海は人生の前提。
二つ目は、体を動かせること。スーパーヨットで働いていた頃、自分だけの静かな時間がほとんどなく、思うように運動もできなかった。そのとき初めて、体を動かすことがどれだけ自分の心とつながっているかを実感した。動けないことは、想像以上にメンタルにも影響していた。
三つ目は、コーヒー。これはもう、シンプルに欠かせない存在。朝の一杯で、気持ちがちゃんと整う。

今後の夢と目標

まだ若くて、大きな責任がそこまでない今のうちに、できることは全部やってみたい。その一つが、パートナーと海外に住むこと。同時に、仕事のスタイルもきちんと整えたい。自分にとって譲れないものを大切にしながら、落ち着きもあって、でも旅も続けられる。そんなバランスを見つけたいと思っている。

これから何か新しいことに挑戦したい人へのアドバイス

一番伝えたいのは、自分のエゴに邪魔されずに人に話しかけること。たった5分の会話でも、少し素直になって「実はこれ、よく分からない」とか「教えてほしい」と言えるだけで、何かが動き出すことがある。オープンな心で、オープンな姿勢で質問すること。この世の中のすべてを知っている必要なんてないし、そんな人はいない。でも、たった5分の会話が自分の人生を変えることもあるし、もしかしたら相手の人生を変えることだってあるかもしれない。
私自身、新しいことを始めるときは、すでにやっている人に「どう思う?」と素直に聞いてきた。それだけ。
サーフィンも同じで、「準備が完璧に整う日」なんてきっと来ない。だから飛び込むしかない。ずっと岸で座って、完璧な瞬間を待っていても、そんな日はたぶん来ないから。

text:Miki Takatori
20代前半でサーフィンに出合い、オーストラリアに移住。世界中のサーフタウンを旅し現在はバリをベースに1日の大半を海で過ごしながら翻訳、ライター、クリエイターとして多岐にわたって活動中。Instagram

TAG #####