#エリス・エリクソン

  • 【シングルフィン特集】ELLIS ERICSON_ジョージ・グリノーの技術とその精神を引き継ぐ男
  • 2025.09.26

「あの頃はシングルフィンを持っているだけで笑われたりした。だからこそシングルフィンにどっぷりハマるのはクールで、そこからボードの乗り方を学び直すのが面白かった」。


レール全体を使うことがシングルフィンの真髄

オーストラリア最東端に位置し、自由な空気と潮風が満ちるユートピア、バイロンベイ。世界でも有数のサーフポイントを擁し、アートやオーガニックカルチャー、大自然が調和するこの楽園で、エリスは生まれ育った。
シェイパーだった父の影響を受け、幼少の頃からサーフィンに明け暮れ、11歳頃からコンテストに出場し、オーストラリアのジュニアタイトルを手にしたこともある。しかし18歳のとき、コンテストで使用される細くて薄いボードを操り、“ルールに従ったサーフィン”をすることに限界を感じ、徐々にサーフィンに対しての情熱が薄れていった。やがてコンテストの世界を離れ、新たな自分を見つけるためシドニーへと移住した。そこで旧友であり、サーフボードデザイナーのマット・チョナスキーと再会する。サーフィンの歴史や文化に造詣が深いマットの影響で、エリスは古いサーフボードやシングルフィンの魅力に目覚め、その奥深いカルチャーにのめり込んでいった。特に1967年以降、ジョージ・グリノーがカリフォルニアからオーストラリアに渡り、ボブ・マクタビッシュらと共にサーフボードの革新を生み出した時代に強く惹かれている。ロングボードが全盛だった時代に、ショートボードがどのように誕生したのかを学び、その歴史と文化に触れることで、新しい世界が開けたような感覚を覚えた。


子供の頃から父親がシェイピングする姿を見て育ったエリスが、本格的にシェイプを始めたのは20歳の頃。自ら作ったシングルフィンを試しながら改良を重ね、独自のスタイルを追求していく。コンテストから離れ、サーフボード作りに没頭する日々は新鮮で、探究心を持ってシェイピングに取り組んだ。ちょうどその頃、カリフォルニアからアレックス・ノストが訪れ、近所の駐車場で彼女とヴァン生活をしていた。ある土砂降りの日、せめて雨風をしのげるようにとエリスは彼を自宅に招き入れる。当時、アレックスはサーフィン業界の異端児として注目を集め、オルタナティブなスタイルで独自のサーフィンを追求していた。ロング、ミッドレングスのシングルフィンを駆使し、既成概念を打ち破るその姿に、エリスは大きなインスピレーションを受ける。当時のオーストラリアではショートボード文化が主流で、シングルフィンに乗る者は珍しく、ときには嘲笑されることもあった。しかし、アレックスたちは意に介さず、スタイリッシュなサーフィンを追求。音楽やアートと融合したクールなサブカルチャーとしてのシングルフィンの世界を確立していった。エリスは「好きなことを、好きな道具で、好きなようにやる」ことの大切さを学び、アレックスとは今も互いの家を行き来しながら、新たなボードデザインを研究している。


バイロンベイ郊外のサフォークパークやブロークンヘッドで毎日のようにサーフィンをしていたエリスは、子供の頃から近所に住むジョージ・グリノーの姿をよく見かけていた。ジョージは夜明け前にビーチに現れるとボートを海に出して、釣りに出かけるというファントムのような存在だった。26歳のとき、エリスはデイブ・ラスタビッチとモルディブへボートトリップに出かける。そこでデイブからジョージが考案したエッジボードを見せられ、そのコンセプトと乗り味に衝撃を受ける。帰国するとすぐにデイブを通じてジョージの元を訪れ、彼のシェイピングを間近で見て学ぶことに。エリスはエッジボードのデザイン哲学を理解し、自らの技術を磨いていった。83歳になったジョージは今でもサーフボード作りに対する情熱を失わず、新しい発見があればすぐに共有してくれる。さらに彼の教えはサーフクラフトにとどまらず、オーガニックなライフスタイルや健康にも及ぶ。エリスにとって、ジョージは単なる師ではなく、人生における大切なメンターである。


「シングルフィンに乗るときに大切なのは、マニュアル車を運転するようにギアの切り替えを意識すること。いきなりトップスピードを出すのではなく、波のエネルギーを活かしながら加速していく。たとえば、ボトムターンが『1速』、そこからハイラインに入ると『2速』、一度スピードを落としターンして『3速』、再びハイラインへ戻って『4速』といった具合に、段階的に加速する。シングルフィンは、適当に動かしてもスピードは出ない。波の力を最大限利用し、ボードと一体になって乗ることが大切だ。そして、フィンだけでなくレール全体を活かして乗ることがシングルフィンの真髄である。良いシングルフィンは、バランスの取れたレールと、適度なロールとタックエッジがあり、ボード全体がしっかり機能するように作られている。レールワークを意識して、前後に動きながらボードをコントロールすることが大切だ。モダンボードのようにフィンに頼ったターンではなく、ボード全体の動きを活かすことが求められる。そのため、乗るときはダンスを踊るようにボードの上でステップを踏み、自由に動き回るといい。“Like a Dance”—それこそが、シングルフィンが美しく見える理由なのさ」


エリスは、将来について特に決まった目標を掲げていない。ただ、その時々のフィーリングを大切にしながら、シェイピングを通じてサーフボードデザインに貢献していきたいと語る。その未知なる探究心に、終わりはない。

エリス・エリクソン
1989年生れ、バイロンベイ出身。ジョージ・グリノーが考案したエッジ・ボードデザインの継承者。現在はNSWミッド・ノースコーストに移住し、大自然に囲まれた家の裏庭にシェイピングベイを構え、日々ボードデザインを探求している。


photography & text _ Zack Balang

>>SALT...#04から抜粋。続きは誌面でご覧ください

「SALT…Magazine #04」 ¥3300
サーフィン、暮らし、生き方、そして思考をより本質的なものへと回帰。シンプルで持続可能な在り方を追求することこそが、真の豊かさにつながる。

<Contents>
⚪︎Burleigh Single Fin Festival
⚪︎未知なる領域へ̶̶ サーフィンの新境地
⚪︎シングルフィンを愛する10人のインタビュー
⚪︎STILL AND TRUE
⚪︎笹子夏輝 ~カリフォルニア・スタイル巡礼の旅
⚪︎サーフィンによるマインドセットのススメ
⚪︎Stories Behind the Waves
⚪︎今を生きるサーファーたちのダイアログ
⚪︎世界の果て、南ポルトガル・サグレス
⚪︎Column _ Miyu Fukada

オンラインストアにて発売中!

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