フリーサーファー笹子夏輝は、現状に何ともいえない焦燥感を覚えていた。どうすれば解消できるのか、何をすれば次のステージに進めるのか、その答えを探しに南カリフォルニアに旅に出た。出会うサーファーたちのスタイルと生き方にヒントを求めて……。
佇まいそのものがかっこいい。コーヒーをすする、タバコをふかす、そんなちょっとした仕草も絵になる。憧れの存在でありつつ親近感も抱いていたジェシー・グーグルマナ。アートにサーフボード。創り出すものすべてに類まれなセンスが宿る。
以前から夏輝は、気になるサーファーとしてジェシーの名をよく挙げていた。10代のころからクイックシルバーにスポンサーされショートボートのコンペティターだったこと、その後コンペを離れフリーサーファーに転身したこと、そして気づけばロギングでも輝きを放つようになったことなど、ジェシーの歩みに自分と重なるものを勝手に感じていた。
南カリフォルニアで生まれ育ち、子どものころはスケートボードにハマっていたジェシーは、家族とカウアイ島に引っ越したのをきっかけにサーフィンにのめり込む。ただコンペには馴染めなかった。その後クロージングブランド「ブリクストン」のライダーになると、その類まれなセンスがデザイナーのピーター・スタダードの目に留まり、ブリクストンのデザイナーに大抜擢される。着こなしがかっこよければ、デザイン未経験でも服を作るチャンスを得ることができる。そんなエピソードがキャプテンズヘルム トウキョウで働く夏輝には輝いて見えた。
「サーフボードにしてもクロージングにしても、ジェシーの作ったものなら手に入れたくなる。なぜならそこには彼の確固たる世界観が感じられるから。そういう存在に憧れる」
ジェシーがクリエイトしたものには味がある。ヴィンテージクロージングに刺繍やスクリーンプリントを施しアップサイクルした彼のブランド「チャンバー」のアイテムにもそんな彼のセンスが宿っている。それらは古着好きにはたまらない一点ものばかり。ニューポートビーチのジェシーの仕事場を訪れるや否や、夏輝はチャンバーのカーディガンを一着ゲットした。

ジェシーのスタジオは、いい意味でカオスな雰囲気で、アーティストがものを生み出す現場そのものだった。彼は夏輝にギフトとしてフィンを一本手渡した

メタル製の重すぎるスケートボードなど、スタジオは面白い創作物で溢れている

ペインティングのセクション。ダークなジェシーの世界観が全開だ

エントランスのギャラリースペース。このときはアートをディスプレイしていたが、スケートボードや自身のブランド「チャンバー」のクロージングのショールームになることも
祖母から受け継いだスクリーンプリント業がジェシーの生業。とはいえ本業のスペースより彼の創作空間のほうが広い。ペインティングのスペースにシェイピングベイ、エントランスには小ぶりなギャラリースペースも。スケートボードも作っているというから、これまたひとつの肩書で収まらない多才ぶりだ。
いまはキャプテンフィンのライダーを務めていて、ミッチ・アブシャーとも極めて近い存在だ。「全部かっこよすぎる。彼と何かコラボできたら最高だな」。夏輝の頭のなかではいろんな妄想が渦巻きだした。
ペインティングには4年の歳月をかけた作品もある。サーフボードも一部のショップの店置きを除きカスタムシェイプがメイン。クロージングも手間ひまをかけるので量産はできない。すべてが時間をかけて創り出されるレアもの。そのかけた時間から付加価値が生まれることを改めて学んだ。

「コーヒーでも飲もうか」。スタジオからすぐのショップ「デイドリーム」で一息入れ、打ち解けるふたり

シェイピングベイの削りかけのボードも気になる

サーフボードやフィン、ドローイングアートやインピレーションブックを見せてもらいながら、クリエイティブな話が弾む

Artist, Shaper
アンダーグラウンドな雰囲気が魅力のフリーサーファー。ハンティントン・ビーチで生まれサンクレメンテやカウアイのノースショアで育つ。シェイピングは父の影響で始める。10年ほど前からログにも乗るようになり、ここ数年そのオールラウンドなサーフィンが人を魅了する。
photography & text _ Takashi Tomita
>>SALT...#04から抜粋。続きは誌面でご覧ください
TAG #A PILGRIMAGE to CALIFORNIA#Jesse Guglielmana#ジェシー・グーグルマナ#笹子夏輝
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