1960 年代から’70 年代にかけて主流だったシングルフィン。
かつては過去の遺産と揶揄されることもあったが、近年、世界各国で再び注目を集めている。その理由の一つは、シンプルで洗練されたデザインが持つ独自の特性にある。シングルフィンは余計な要素を排し、直進性とグライド感を最大限に高めた構造を持つ。波のエネルギーを効率よく活用し、流れるようなターンを生み出すその特性は、サーファーに正確なレールワークと波を読む力を求める。鋭角なターンには向かないものの、ドライブ性が高く、波のフェイスをトリムしながら滑走。ホローな波ではフィンが水をしっかりホールドすることでスピードロスを抑え、加速しながら波と一体化する。こうした特性を活かしたシングルフィンサーフィンは単なるスタイルの一つではなく、その力を最大限に引き出すためのアプローチでもある。この流れは特にオーストラリアにおいて顕著で、多くのサーファーがシングルフィンの価値を再認識している。大手メーカーからは、往年のデザインを再現したクラシックモデルや、現代の技術を取り入れたリファインモデルがリリースされるなど、マーケットにも影響を与えている。その背景には、オーストラリアのライフスタイルと密接な関係があるようだ。
オーストラリアの沿岸地域には、シンプルで牧歌的な暮らしが根付き、過剰な消費を避け、自然に寄り添った生活を大切にする価値観が浸透している。特にサーフカルチャーが根付く地域では、日常生活が自然のリズムに合わせて構築され、バランスを重視する傾向が強い。ミニマリズムが示すように、本当に必要なものだけに囲まれることで精神的な充足が得られる。この考え方は、シングルフィンサーフィンの本質とも共鳴する。多くのフィンを搭載したパフォーマンスボードが機動性を追求するのに対し、シングルフィンは波との一体感を重視する。一見、不便に思えるかもしれないが、身軽になることでより自由に生きられるのと同じように、シングルフィンサーフィンも無駄を削ぎ落とした先に、本質的なサーフィンの喜びがある。波のうねりに身を委ね、力でねじ伏せるのではなく、その流れに調和する。そうしたシンプルな行為の中にこそ、深い満足感と心地よさが生まれるのだ。
今回の特集では、再燃するシングルフィンサーフィンの最前線を探るべくオーストラリアに渡った。シングルフィンを愛するサーファーやシェイパーを取材し、その哲学やスタイルに迫る。最初の舞台は、バーレーヘッズで30 年近く続くシングルフィンのコンテストだ。
オーストラリア・ゴールドコーストで毎年開催されている「Burleigh Single Fin Festival」。その名の通り、シングルフィンのみで競い合うサーフコンテストで、今年で28年目を迎える由緒ある大会。このイベントに、日本からビラボンライダーの仲村拓久未と安室丈がエントリー。大会を通じて浮かび上がるサーフィン大国たる所以と、一枚刃の奥深さ。
2025年1月11日。ゴールドコーストの夏の風物詩として知られている「バーレー・シングルフィン・フェスティバル」が開催された。1985年以前のシングルフィンのみを使用するというユニークなレギュレーションのもと、ジュニア24名、ウィメン24名、メン96名、マスター6名の計4クラス、総勢150名がエントリー。その参加人数の多さもさることながら、今年で28回目を迎える歴史の長さに驚く。1987年からバーレーヘッズ・ボードライダースクラブの代表を務めるジェシー・アウトロムに、大会開催の経緯を聞いた。
「ボードライダースが設立されたのは今から60年前の1965年。亡くなった初期メンバーの一人、ピーター・ロバーツのメモリアルイベントとして同メンバーのピーター・ハリスが始めたのがきっかけ。最初の3回はメモリアルとして行い、過去にはマイケル・ピーターソンを追悼する大会として開催したこともあった。当初は数人の小さな大会だったが年を重ねるごとに大きくなり、現在では150名が参加する大会へと成長している」クラブには男女問わず、子供から大人まで幅広い年齢のサーファーが所属しており、14歳から60歳までを対象とした大会を月に1度開催している。メンバーにとって大会での成績は重要だが、主催者側の真の目的は子供たちの育成にあり、“彼らにサーフィンの楽しさを伝え、次の世代に繋げる”ことにある。大会以外にもビーチクリーン活動を実施したり、会費を環境団体へ寄付するなどの取り組みも行っている。前述の月に1度行われている大会はショートボードの大会だが、今回はシングルフィンのみを使用した大会。その理由について、ジェシーはこう続けた。
「クラブ設立時は、みんなシングルフィンに乗っていた。その当時に敬意を払い、ピュアにサーフィンを楽しむことができるシングルフィンの大会にしている」
ジャッジのクライテリアは、フローとマニューバリティに加え、スタイル(グッドルック)を重視。ヘッドジャッジを加えた計4名により採点が行われた。ローカルな大会とはいえ、規模も注目度も高く、エントリー枠も募集開始早々に埋まることが多い。そのため、クラブメンバーやスポンサー向けの特別枠が設けられており、拓久未と丈は大会のメインスポンサーであるビラボンの枠を使用して出場した。
コンテストは2日に渡って行われたが両日ともあいにくの雨で、真夏のオーストラリアとは思えない肌寒い天気。時折風も強き吹きつけ、決して良いコンディションとは言えなかった。実際、オーディエンスの数も例年の半分ほどだったが、選手も主催者も天候を全く気にする様子もなく、朝7時に大会がスタートした。ちなみに、28年の歴史の中で天気や波の影響で中止になったことは一度もなく、パンデミックの間も途切れることなく開催されてきた。
後半に続く
photography _ MACHIO
special thanks _ Billabong, Zack Balang, Burleigh Boardriders
>>SALT...#04から抜粋。続きは誌面でご覧ください。
「SALT…Magazine #04」 ¥3300
サーフィン、暮らし、生き方、そして思考をより本質的なものへと回帰。シンプルで持続可能な在り方を追求することこそが、真の豊かさにつながる。
<Contents>
⚪︎Burleigh Single Fin Festival
⚪︎未知なる領域へ̶̶ サーフィンの新境地
⚪︎シングルフィンを愛する10人のインタビュー
⚪︎STILL AND TRUE
⚪︎笹子夏輝 ~カリフォルニア・スタイル巡礼の旅
⚪︎サーフィンによるマインドセットのススメ
⚪︎Stories Behind the Waves
⚪︎今を生きるサーファーたちのダイアログ
⚪︎世界の果て、南ポルトガル・サグレス
⚪︎Column _ Miyu Fukada
オンラインストアにて発売中!
TAG #BACK TO BASIC#BACK TO SINGLE FIN#BILLABONG#Burleigh Single Fin Festival#SALT...#04#シングルフィン#中村拓久未#安室丈
昨年の4月に創刊し、2冊のタブロイド発刊を経て、2号目となる雑誌が完成しました。タイトルは「BACK TO BASIC」。サーフィン、暮らし、生き方、そして思考をより本質的なものへと回帰。複雑化した現代において、不要な要素を削ぎ落とし、シンプルで持続可能な在り方を追求することこそが、真の豊かさにつながる。
巻頭はオーストラリアで再熱するシングルフィンを特集。オーストラリア・ゴールドコーストで毎年開催されている「Burleigh Single Fin Festival」。その名の通り、シングルフィンのみで競い合うサーフコンテストで、今年で28年目を迎える由緒ある大会。このイベントに、日本からビラボンライダーの仲村拓久未と安室丈がエントリー。大会を通じて浮かび上がるサーフィン大国たる所以と、一枚刃の奥深さ。
続く特集は、シングルフィンを愛するサーファー、シェイパーのインタビュー。オルタナティブブームを創った影の立役者デレク・ハインド、WLTをフォローしながら自身のボードを削るカイ・エリス=フリント、ジョージ・グリノーの技術と精神を引き継ぐエリス・エリクソンなど、10人のサーファーがシングルフィンの魅力を語ります。
第2巻頭特集は、大橋海人プロと妻のイザさんによる「STILL AND TRUE」。海・自然のリズムに寄り沿いながら、丁寧な暮らしをおくる2人。愛用のアイテムやインタビューを交えながら、素敵なライフスタイルを紹介していきます。
そのほか、笹子夏輝が憧れるサーファーたちの元を訪れた「カリフォルニア・スタイル巡礼の旅」、サーフィンとマインドセットの関係を紐解く「SURFING MEDITATION」、6人のサーフフィルマーをピックアップした「STORIES behind THE WAVES」、テーマ別で語り合う「今を生きるサーファーたちのダイアログ」、世界の果て、南ポルトガルのサグレスを特集した「THE END OF THE WAORLD SAGRES」など、トータル188ページに及ぶ一冊です。年に1回の発刊だからこそ全ての特集がスペシャルで、色褪せることなく永年読んでいただけます。
特集:笹子夏輝 ~カリフォルニア・スタイル巡礼の旅
特集:サーフィンによるマインドセットのススメ
-宗貫/佐藤魁/剛壽里/田中宗豊-
特集:Stories Behind the Waves _ 映像の先に繋がるもの
-Ben Judkins & Taylor Lane/Kuio-okalani Young/Nico Ramos/Hefty Beef (森脇海)/Rise(畑勝也)/田中未碧
特集:今を生きるサーファーたちのダイアログ
-柴田浩次×瀬筒雄太/松田詩野×松本恵/榎本信介×中村光貴-
特集:世界の果て、南ポルトガル・サグレス
「SALT…Magazine #04」 ¥3300
サーフィン、暮らし、生き方、そして思考をより本質的なものへと回帰。シンプルで持続可能な在り方を追求することこそが、真の豊かさにつながる。
<Contents>
⚪︎Burleigh Single Fin Festival
⚪︎未知なる領域へ̶̶ サーフィンの新境地
⚪︎シングルフィンを愛する10人のインタビュー
⚪︎STILL AND TRUE
⚪︎笹子夏輝 ~カリフォルニア・スタイル巡礼の旅
⚪︎サーフィンによるマインドセットのススメ
⚪︎Stories Behind the Waves
⚪︎今を生きるサーファーたちのダイアログ
⚪︎世界の果て、南ポルトガル・サグレス
⚪︎Column _ Miyu Fukada
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© SALT… Magazine All Rights Reserved.
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