#Andrew Kidman

  • 【特集】SURF MUSIC makes us "SALTY" #12 -アンドリュー・キッドマンが語るサーフミュージック-
  • 2025.01.23

海と対峙するとき、音楽は円滑油のような効果を発揮する。サーフィンと音楽が絡み合い起こる化学反応。多くの先人たちの言葉を交え時空に綴れ織りを描くとき、サーファーとダンスの関係が見えてくる。


'80年代以前のサーフィン映画は、音楽使用に関して自由だった。著作権も関係なく、多くの監督たちは自分好みの楽曲を言わば勝手に使っていた。'80年代に入ると「サーフィン映画だけが特例なのはおかしい」と著作権協会が目を光らせるようになり、楽曲使用料が徴収されるようになる。'70年代はジミ・ヘンドリックス、クリーム、サンタナとやりたい放題だったが、'80年を境に一変した。1976年ホール&マッコイ作の『チュブラー・スウェウルズ』に使用されている楽曲は、100万枚セールスを記録するバンドのオンパレードだったが、'81年の『ストームライダース』ではオープニングのドアーズ「ライダーズ・オン・ザ・スートーム」を除き全曲が自国オーストラリアのバンドで構成されている。理由はプロモーション契約を結び、楽曲を無料で提供してもらえたから。音楽使用に関する著作権は劇場公開、テレビ、ビデオなど使用用途で金額が異なっていた。テイラー・スティールの『モーメンタム』はビデオオンリーのため金額が低く、グリーン・デイ、オフスプリング、ペニー・ワイズ、バッド・レリジョン、スプラング・モンキーなど当時の人気バンドを使用できた。つまり劇場公開しない限り安価に使用できたわけだ。

サーフムービーは、波とサーファー、映画そのもののコンセプトが最も重要だが、同時に映像と音楽のマッチングの高さも完成度に比例する。シドニー・ニューポートビーチの鬼才アンドリュー・キッドマン(現在はバイロン在住)は、おそらく誰よりも音楽にこだわりをもつアーティストであろう。1997年にリリースされた『リトマス』は、ショートボード一辺倒のサーフシーンに終止符を打った。スキップ・フライのフィッシュでジェフリーズベイのハイラインを走るデレク・ハインド、シングルフィン・ノーリーシュでフリーサーフィンを享受するトム・カレン、チューリップテールでリトルアバロンのチューブをメイクするガス・ディケンソン。当時は映像が粗く、ドラッグシーンなど問題が多すぎるとサーフショップでの販売すら拒否されたが、数年後に世界で最も影響を与えたサーフムービーとなる。


サーフムービーは、サーフミュージックを反映するアートだ

SALT...(以下、S)_ サーフィンと音楽の関係とは?
Andrew Kidman(以下、A)_ どちらも自然に発生する創造物で、音の波長と海の波長に対する反応だと思う。音に乗るのも波に乗るのも同じ喜びだ。どちらも正しく調律されるように、常日頃から訓練を積むべきだと思う。それが創造力の源だ。

S _ フィルム用に曲を作ることは?
A _ 現実には今まではなかった。シンプルに作詞作曲する喜びから曲作りをしていた。映像をイメージしながらしたことはない。でもそれは面白いアイデアだと思うし、近い将来実践してみたい。

S _ 質問は重なりますが、撮影の前か後に音楽をイメージすることは?
A _ 確かにどちらのケースもある。ときに予測していないことが起きることもある。作詞作曲をして、それに合うフィルムを撮影することもある。逆のケースもあり、撮影したフッテージを映画の一部に使用するために音楽をレコーディングすることもある。自分の中でこれといった決め事はしていない。

S _ なぜ音楽にこだわり続けるのか? アンドリュー以外、自ら作詞作曲し、歌い、演奏するフィルムメーカを知らない。
A _ うーん、私にとって音楽がすべてで、追及してもキリがないほど繊細かつ無限だ。その効果は果てしないと思う。映像を観る人たちは音楽によって印象が変わってくる。私は視覚的要素と聴覚的要素を結合することに、ずっとこだわり続けている。

S _ あなた以外のフィルムメーカーは、既存の音楽を使用するのが常です。DVDが普及する前に『リトマス』はビデオテープとCDのセットで販売されていました。ビデオだけ欲しい、CDだけが欲しいという人もいたと思うが。
A _ 映像を強く印象づけるために音楽は重要だし、音楽を聴いて映像を思い起こすことも大切だ。だからセットで販売した。私は自分の音楽を聴いてもらいたいし、場合によってはすでにある音楽を使用することもある。理由はそれ以上の作品を創り出せないからだ。映像とこれ以上のシンクロはないという曲がある。例えば『グラスラブ』のオープニング、キャット・パワーの歌は完璧だ。無垢で魔法のような詩、この作品がなければフィルムは成功しなかった。運命の出合いと言える。

S _ 映画『ホットバタード・ソウル』のサウンドトラックを担当されていますが、演奏はすべてインプロビゼーション(即効演奏)だったそうだが?
A _ その通り、大きなスクリーンに映し出された映像を観ながら、すべてその場で創り出された。もちろんある程度のリハーサルはした。リーダーはティム・ゲイズ、彼は『モーニング・オブ・ジ・アース』をはじめ『エボリューション』や『シー・オブ・ジョイ』など数多くのサーフムービーの音楽を担当するするマスターだ。彼はミュージシャン全員に言葉では言い表せない精神的影響を与えた。全員が全員の音を聴きながらグルーブしあった。私は普段座りながらリズムギターを刻むが、マスターの演奏に合わせ、次にどう弾くのか予想しながらテンポや強弱を付けた。まるでサーフィンするかのように演奏した。

S _ ところで『リトマス』のデレク・ハインドのシーンで使用されているバンド、ギャラクシー500、それに『グラスラブ』のキャット・パワーを選んだ理由は?
A _ ギャラクシー500はデレクが教えてくれた。それまでは知らなかったが、凄いバンドだ。まるで現代のヴェルヴェット・アンダーグラウンドだ。キャットは何度も何度もライブを観ていた、大好きな女性シンガーだ。私にとってサーフミュージックは、カントリーミュージックのようなものだ。たくさんのバリエーションがある。中には身の毛のよだつようなものもある。ジョージ・グリーノーの『クリスタル・ボヤージャ』で使用されているピンク・フロイドの「エコーズ」の1曲のみで全22分のパートは、完璧だ。全く真逆だけれどウィーリー・ネルソンの「レッド・ヘデッド・ストレンジャー」は私にとってサーフカントリミュージックの原点だ。音楽とサーフィンは、どちらも波、その波長にチューンすることが大切さ。

【Profile】
アンドリュー・キッドマン
若くして豪サーフィンライフ誌の編集長になるが、コンペシーンに嫌気がさして辞職。その後オルタナティブボードにスポットを当てた映画『リトマス』を発表。写真家、版画家、シンガーソングライター、シェイパーとして才能を発揮している。

【SURF MUSIC makes us "SALTY"バックナンバー】
#01 -潮騒香る音楽に身を委ね踊るとき-
#02 -ショートボード革命とサイケデリックサウンドの相関図-
#03 -世界中で無限の変貌を遂げ始めたフラワーチルドレンの種-
#04 -制限なき選択ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド-
#05 -サーファーだけが知るアンダーグラウンドという美学-
#06 -コラム:DICK DALE/ヘビー“ウェット”ギターサウンズ-
#07 -コラム:KALAPANA/アイランド“クール”ブリージング-
#08 -コラム:CALIFORNIA BLUE/西海岸からの潮風-
#09 -コラム:REBEL MUSIC/反骨心の魂を追う、サーフミュージックの側面-
#10 -コラム:SURFER' S DISCO & AOR/サーファーズ・ディスコとAOR-
#11 -コラム:ON THE RADIO/そこでしか聴けない音楽が、サーファーを魅了する-


>>特集の続きは本誌でご覧ください。

「SALT…Magazine #01」 ¥3,300

本誌では24ページにわたってSURF MUSICを特集。“サーフィンと音楽”の蜜月関係から、アンドリュー・キッドマンのインタビュー、抱井保徳さんのコラムなど掲載。潮の香りをまとったソルティな音楽は、サーフィンライフを豊かにしてくれる。


photography _ Andrew Kidman

TAG #####