#シェイパー

  • 【シングルフィン特集】JALEESA VINCENT_欲しいモノは、すべて自分の手でつくる
  • 2025.10.08

独創的なアートとサーフィンで人気を博し、シェイピングも行うジャリーサ・ヴィンセント。自身のブランド「Pussy Surfboards」では“女性の逞しさ”を表現し、創造性豊なアイテムを展開する。



シングルフィンはあれこれ考えず、“ナチュラル”に

クイーンズランド州サンシャイン・コーストに位置するのんびりとしたサーフタウン、クーラムビーチ。真っ青な海に太陽が降り注ぎ、真っ白で滑らかな砂浜がどこまでも続く。ランダムなビーチブレイクの波が一年を通してコンスタントに割れ、ヌーサ・ヘッズまでクルマで20分ほどで行ける。この恵まれた環境で育ったジャリーサ・ヴィンセントは、兄のジェイクの影響で6歳頃からサーフィンを始めた。彼女が最初に手にしたボードは、ガレージセールで売られていたクラシックなシングルフィンだった。たった5ドルで手に入れたそのボードは美しいデザインで、何人かのサーファーに売って欲しいと頼まれたほどだった。両親はサーフィンをしていなかったため、兄とともに試行錯誤しながら技を磨いていった。
洋服の仕立屋だった母親の影響もあり、ジャリーサは幼い頃から「欲しいものは自分でつくる」というDIY精神が強かった。毎日のように絵を描き、ものづくりに没頭。中学1年生のときにはアートコンテストで優勝し、自分の作品に自信を持つようになる。サーフィンとアートに深くのめり込み、地元でも個性的な存在として知られるようになったジャリーサは、やがてオーストラリアのサーフィン誌『Surfing World』が主催するトリップに招待される。そこで、芸術的な感性を持つオルタナティブなサーファーたちと出会い、音楽や映像制作を通じて交流を深めていった。その過程で、オーストラリアを代表するフリーサーファー集団「RAGE」のメンバーと知り合う。RAGEは、卓越したサーフィンの技術とクリエイティブな才能を併せ持つ者だけが所属できるグループであり、ジャリーサはそのタレント性を認められ、メンバーに加わることとなった。


21歳になると、彼女はバイロンベイの内陸部に移住し、RAGEのメンバーであるエリス・エリクソンやボー・フォスターと共同生活を始める。シェイピングを生業とする彼らの姿を見学するうちに、ジャリーサも「次はお前が作る番だよ」と勧められ、初めてボードを削ることになる。兄のように慕うエリスの指導を受けながら、自らデザインしたテンプレートをベースに仕上げたボードは、これまで乗ってきた中で最高の乗り心地だった。この成功をきっかけに、ジャリーサはシェイピングに魅了され、それ以降、彼女が乗るボードはすべて自作するようになった。その後もエリスのアドバイスを受けながら技術を磨いていき、これまでに20本近くのボードをシェイプ。今後はさらに試行錯誤を重ね、自分のスタイルを確立していきたいと考えている。
「100本削れば、シェイピングの本質を理解できるはず」と語る彼女は、ボードの形をそのときの気分やインスピレーションに委ねながら、独自の表現を追求している。失敗が思わぬ結果をもたらすこともあり、最近もノコギリの角度を2インチ誤り短くしてしまったが、その偶然が最良のボードを生み出した。

ライディングスタイルでも独創性を発揮し、脚光を浴びているジャリーサ。主にスラスターのショートボードを愛用し、得意のレイバック・スラッシュでは波のフェイスにレールを深く入れ込み、閃光のようなスプレーをあげる。また、スリーシックスティやエアなど多彩な技を操り出し、男性顔負けのフリースタイルサーフィンを披露する。しかし、シングルフィンに乗るといつもの鋭いターンやスピードとは異なり、流れるようなスタイルに変わる。ショートボードでは「こうしたい、ああしたい」と常に考えているが、シングルフィンでは波と一体化する感覚を大切にし、波のエネルギーを活かした自然なラインを描く。特にサイズがある波のボトムターンでフィンがしなり、その反動で驚くほどのスピードが生み出される瞬間の、“あの感覚”がたまらないと語る。


2024年、ジャリーサはフィルムメーカーでパートナーのルカ・Rと共に、ミュージカルサーフィン映画『JUJU』を制作し、日本やヨーロッパで上映ツアーを開催した。脚本や音楽も自ら手がけたこの作品には、オッキーやクリード・マクタガートらも出演し、斬新な映像表現が話題を呼んだ。さらに、彼女は自身のブランド「PUSSY SURFBOARDS」を発表し、サーフィンとアートを融合させた独自のスタイルを確立している。


「ブランド名を考えたとき、『Heroin(女英雄)』などいくつか候補があったけど、最終的に『Pussy』に決めたの。サーフィン業界は男性中心の世界だから、女性らしさを前面に出したブランドを作りたかったの」と語るジャリーサ。「Pussy(猫)」という単語には、オーストラリアでは「女々しい」という意味もあるが、彼女はあえてこの言葉を選び、「Pussyボードに乗ることで女性が強くなる」というメッセージを込めた。さらにDIY感溢れるオリジナルアパレルも展開し、そのユニークな活動が注目を集めている。ビジネスよりもクリエイティブな表現を重視し、サーフィンを始めたばかりの女性たちが安心して相談できる場も提供していきたいと、大きな夢も語ってくれた。


現在、彼女はNSWミッドノースコーストの小さな集落に拠点を構え、サーフィンと創作活動、そしてベジガーデンの手入れをしながら、新たなプロジェクトを企画中だ。彼女の手から生まれるボードやアートワークは、どれも自由な発想と情熱に満ちている。次にどんな作品が生まれるのか……そのワクワクする未来から、目が離せない。


ジャリーサ・ヴィンセント

1998年生まれ、サンシャインコースト出身。フリーサーファー、画家、ミュージシャン、シェイパー。近年は精力的に映像制作を行い、2024年にはサーフィンとミュージカルを融合させたショートムービー『JUJU』をリリース。


photography & text _ Zack Balang

>>SALT...#04から抜粋。続きは誌面でご覧ください

「SALT…Magazine #04」 ¥3300
サーフィン、暮らし、生き方、そして思考をより本質的なものへと回帰。シンプルで持続可能な在り方を追求することこそが、真の豊かさにつながる。

<Contents>
⚪︎Burleigh Single Fin Festival
⚪︎未知なる領域へ̶̶ サーフィンの新境地
⚪︎シングルフィンを愛する10人のインタビュー
⚪︎STILL AND TRUE
⚪︎笹子夏輝 ~カリフォルニア・スタイル巡礼の旅
⚪︎サーフィンによるマインドセットのススメ
⚪︎Stories Behind the Waves
⚪︎今を生きるサーファーたちのダイアログ
⚪︎世界の果て、南ポルトガル・サグレス
⚪︎Column _ Miyu Fukada

オンラインストアにて発売中!

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