北から南へ、人と波に導かれて
オレゴンでは緑が生い茂っていたのに、カリフォルニアに入った途端に空気は乾き、木々の姿がまばらになっていった。それと同時にガソリンの値段もぐっと上がる。同じ国とはいえ、さすがは合衆国。州によって税金は異なり、物価もまるで違う。
向かったのはボーダー近くの町、クレセントシティ。セピア色にくすんだ少し寂れた街並みは、どこか哀愁を帯びている。ヴァンライフの先輩ナンシーから「治安があまり良くない」と聞いていたから、少し身構えながらクルマを走らせた。

クレセントシティから1時間半ほど南に下ったポイントのキャメルロック
知らない町に着いたら、まずはサーフショップに行くのが僕のルール。地元の情報を知るには、それがいちばん早い。町を散策していると、小さなサーフショップを見つけた。こじんまりとした店内には、センスのいいサーフボードやアパレルが並んでいる。店主に声をかけ、この辺りのサーフスポットについて尋ねた。
この町には大きく分けて2つのポイントがある。北西部のリーフブレイク、そして南向きのビーチブレイク。ウネリの向き次第でどちらも楽しめるらしい。ほかにも南のポイントや治安のことなど、ロードトリップで気になる情報を丁寧に教えてくれた。特に細かく話してくれたのは(正直あまり聞きたくなかったが)サメの話だった 笑。
オレゴンコーストから北カリフォルニアにかけては、ホホジロザメが多く生息しており、食物連鎖が活発に行われているという。つい先日も、ここから30分ほど南の河口でカヤッカーが襲われたらしい。河口には魚が集まり、それを狙ってアシカやアザラシがやってくる。そして、そこを狙ってサメも寄ってくるのだとか。ありがたい情報ではあるが、せっかく良さそうな波を見つけても、サーフィンする気が削がれてしまったのは言うまでもない。

ハイウェイ1の道中のサーフスポット。この辺り一帯はレッドトライアングルと呼ばれ、多くの海洋生物が生息する。波は良かったが誰も入ってないのでスルーした

クレセントシティ北西部のリーフポイント。右側からメローに割れる波は初心者にも優しい。沖に見える島にはアシカが多く生息していて、鳴き声がなかなかうるさい
その後、多少ウネリが入っていたサウスビーチで、偶然出会ったおじさんとサーフィンをした。日常生活では祖父母世代の人と話す機会などほとんどないが、サーフィンという共通の情熱が、年齢という壁を越えて僕らをつないでくれる。出会って間もないのに、どこか魂が共鳴するような感覚があった。
昔、友人が言っていた。「人はそれぞれ周波数を持っていて、それが合う者同士が出会う」と。まさにその言葉の通り、心地いいラジオを聴いているような感覚で彼の言葉に耳を傾け、気づけば頬が痛くなるほど笑っていた。

クレセントシティで出会ったサーファーのロブ。若い頃からアドベンチャー好きで色々無茶もしたらしい。今できることを全力で楽しむことが大切と教えてくれた
このあたりに来てから、会う人みんなに同じことを言われる。
「早く南カリフォルニアへ行け」と。
それもそのはず、北カリフォルニアもオレゴン同様、メインシーズンは冬。7月の今は、夏がシーズンとなる南カリフォルニアへ向かうべき時期だ。その後はサーフスポットをチェックしながらもサーフィンはせず、サメから逃げるように南を目指した。
ちょうどその頃、南ウネリが反応し始め、僕らにとって初めてのグランドスウェルがやってきた。ハイウェイ1をサンフランシスコへ向けて走る途中、各地のポイントでは徐々に波が上がり、それとともにサーファーの数も増えていった。どこもコンスタントに胸〜頭サイズのいい波が割れていたが、まだ“これだ!”という波ではなかった。途中妻のロングボードでもできそうな場所で1ラウンド入ったものの、そこでもローカルたちに「もっと南へ行け、サンタクルーズは今いい波だ」と背中を押された。
夢だったゴールデンゲートブリッジを渡り、ついにサンフランシスコへ入った。多くの人から観光を勧められていたが、よりによって南ウネリが重なってしまった。
――波を追うしかないじゃないか。
街中にクルマを停めておくとほぼ間違いなく盗難に遭うと聞いていたので、いくつか行きたい場所を駆け足でまわり、すぐに街を後にした。

カリフォルニアロードトリップで外せないスポット。橋の下でもサーフィン可能だが、大きな北ウネリが必要

サンフランシスコ北のポイント、ボリナスビーチ。腰くらいのサイズが最もキレイにまとまる
サンフランシスコを抜けると、有名なサーフスポットが続く。オーシャンビーチ、そしてハーフムーンベイのマーベリックス。ビッグウェーブは立っていなかったが、聖地を見ておきたかった。「早くいい波でサーフィンしたい」という気持ちを抑えながら、ポイントを一つひとつチェックしていった。
道路標識に“Santa Cruz”の文字が見えた瞬間、胸の鼓動が高鳴った。街に入るとヤシの木が並び、空気が一気に南国めいてくる。海沿いの道を灯台の方へ進み、左カーブに差し掛かった岬の先端を見下ろすと、そこにはサーフマガジンで何度も見た光景が広がっていた。

海岸線沿いを走るハイウェイ1。目まぐるしいほど変わっていく景色は、何十キロ走っても飽きることはない
































