• 【特集:Ocean People】海から始まるストーリー/36_エラ・テイラー
  • 2026.07.10

海と繋がり、自分の中の好きや小さなときめき、そしていい波を追い求めてクリエイティブに生きる世界中の人々、“Ocean People”を紹介する連載企画。彼らの人生を変えた1本の波、旅先での偶然な出会い、ライフストーリーをお届けします。

Profile
Ella Taylor エラ・テイラー
オーストラリア出身のフォトグラファー、デザイナー、そして『Lacking Representation』創設者。サーフィンとクリエイティブカルチャーを軸に、ローカルコミュニティの物語やクリエイターの声を、紙媒体を通して発信している。

あなたのことについて教えて

生まれ育ちはオーストラリア、メルボルンから車で約1時間半の場所にあるモーニントン半島。海に囲まれた場所で育ち、幼い頃から海で過ごすことが日常だった。6歳の頃からサーフィンとサーフライフセービングを始め、10代半ばまでは一日の大半をそれに費やしていた。
高校に入る前後、14歳くらいのときに初めてカメラを手にし、写真に夢中になった。もともと海が大好きだったから、サーフィンの写真を撮ったり、ブランドの撮影をしたりすることに強く惹かれ、今振り返ると、その頃がすべての始まりだったように思う。そこから自然とデザインにも興味を持つようになり、写真とデザインはどちらも高校時代に育まれたパッション。当時は「いつかニューヨークの大きなクリエイティブスタジオで働きたい」という夢を持っていて、10代の私にとって、それはとてもワクワクする未来だったわ。
それともうひとつ、子どもの頃から大きな情熱を注いでいたのがスキー。18歳でデザインを学び始めたものの、「少し学校から離れてみたい」と思い、スキーシーズンを過ごすことを決めた。オーストラリアのジンダバインとカナダを行き来しながら、スキーインストラクターとして6シーズン連続で働き、その間もずっと写真を撮り続けていた。少しずつ小さな仕事を受けるようになり、写真の仕事が形になり始めたわ。
2020年、最後のシーズンでアキレス腱を断裂してしまい、それをきっかけにスキーを続けることができなくなった。でも今振り返ると、そのケガは人生の大きな転機だったと思う。リハビリとして再開したのがサーフィンだった。走ることはできなかったから、「それなら海に戻ってパドルしよう」と思ったの。
再び海に入るようになったとき、「なんでここ数年、こんなにサーフィンから離れていたんだろう」と気づいた。大学に通っていた頃は、授業中もずっと波情報やライブカメラをチェックしていて、「あと何分でこの授業から抜け出せるだろう」なんて考えていたくらい。よく「ちょっと用事があるので」と言って授業を早退し、そのまま車を飛ばして海へ向かっていたわ。
ショートボードもロングボードも経験したけれど、今のパートナーに出会ってからは、ロングボード特有の流れるような動きや感覚に惹かれるようになった。ありきたりな表現かもしれないけれど、私にとってロングボードはまるでダンスのようなもの。海の上でただ自分自身と向き合い、その瞬間に身を委ねることができる。日々の暮らしの中で、自分を整え、心を落ち着かせるための、とても神聖な時間だわ。
そんな形でサーフィンとデザインが私の人生の中心になっていった。もともと出版や雑誌の世界が好きだったこともあり、「サーフィン、写真、デザインという自分の好きなものを、どうすればひとつの形にできるだろう」とずっと考えていた。そして大学最後の年だった2023年に、『Lacking Representation』を立ち上げた。

『Lacking Representation』につい

『Lacking Representation』を立ち上げたとき、掲載する内容に対して最初から強い意図を持っていた。私は男兄弟が二人いる環境で育ち、子どもの頃はサーフィン仲間も男友達が多かった。数年間スキーに打ち込んだ後、17〜18歳頃に一度海から離れ、22〜23歳で地元のポイントへ戻ってきたんだけど、そこでコミュニティの雰囲気が大きく変わっていることに気づいた。
アキレス腱の大ケガから復帰したばかりの頃、ある男性サーファーがパドルして近づいてきて、「何をしているかわからないなら、ショルダーにいた方がいいよ」と言われた。私は「今リハビリ中で、ここはローカルスポットだから、自分で判断できるわ。ありがとう」と返した。でも海から上がったあと、「今のは何だったんだろう」とずっと考えていた。それまで人生でずっと居心地の良かったホームブレイクで、初めて男女の間にある微妙な緊張感のようなものを感じた瞬間だった。誰かと衝突したかったわけでも、声を荒らげたかったわけでもない。ただ純粋に、何が起きているのかを感じていた。そして、その観察が『Lacking Representation』の出発点になった。
地元には素晴らしい人たちがたくさんいるのに、誰もお互いを称えたり紹介したりしていない。特に私が身を置くクリエイティブコミュニティには、もっと光を当てるべき人たちがたくさんいるのに、それを十分に表現できる場所がない。若い女の子たちがコミュニティに入ってきても、身近にロールモデルが見当たらない。さらに、地元のクリエイターたちを紹介する場もほとんどなかった。
当初は本当にローカルなプロジェクトのつもりだった。まさかオーストラリア各地や海外にまで広がるなんて、思ってもいなかったわ。私が伝えたかったのは、「女性対男性」という単純な対立ではなく、「私たちはみんな同じ海を共有しているのだから、もう少しお互いにリスペクトを持てないだろうか」ということ。それが創刊号の大きなテーマになった。
創刊号では、男性2人と女性3人にインタビューし、全員に同じ質問を投げかけた。それぞれ異なる分野で活動していたから、返ってくる答えもまったく違っていた。完成した誌面を読み返してみると、みんな似たような経験をしているのに、その解釈や感じ方は驚くほど異なっていたわ。特に印象的だったのは男性たちの意見。彼らは決して「女性が邪魔だ」とか「能力が足りない」と言っていたわけではない。ただ、海の中で感じる女性たちの振る舞いや距離感について率直に語っていて、その視点は読者にとってもとても興味深いものだった。そうした対話を通して、『Lacking Representation』は単なる問題提起ではなく、さまざまな立場の声を届けるプラットフォームへと変化していった。
今振り返ると、創刊号には当時の私自身の感情も強く反映されていたわ。怪我からの回復途中だったこともあり、少し苛立ちもあったし、若さゆえのエネルギーもあった。言葉の選び方や表現には、良い意味で生々しさがあり、率直な感情がそのまま表れていたと思う。だからこそ第2号では、「祝福」と「コミュニティ」をテーマにした。誰かを批判するのではなく、人々を称え、つなげるための場をつくりたかった。次号では、オーストラリアのサーフィンシーンを代表するブランド「ATMOSEA」が加わり、プロジェクトは一気に大きく動き始めたわ。

ほとんどのものがデジタルに移行し、出版業界が静かになっていく現代。そんな中で雑誌を作ることに対しての想いは

感じているのは「不安」というより、むしろ「寂しさ」に近い感覚。出版物には、たくさんの愛情や情熱、そして“ゆっくりと向き合う時間”が込められている。それは雑誌を作ることだけではない。スマートフォンのメモやGoogleカレンダーではなく、紙やノートにやるべきことを書き出すことも同じだと思う。私は出版という文化の居場所を守り続けたいし、「私たちはまだここにいる」ということを伝えられる存在でありたい。コーヒーを片手に、5分だけでも座ってページをめくる。スクロールする必要はない。そんな時間の価値を忘れてほしくない。
私自身、仕事では毎日のようにコンピューターに向かっている。デザインの仕事をしているから、ほぼ一日中画面を見ていると言ってもいいくらい。今ではAIがブランドを作り、文章を書き、本まで作る時代になった。でも私は、「それは違う」と感じている。だからこそ、実は今は出版にとって面白い時代でもあると思う。人はいつだって、自分が失いつつあるものを求めるものだから。デジタルが当たり前になった今だからこそ、人々は紙が持つ温度や、手に取るという体験を改めて求めはじめている。本当は、近所の書店や商店に立ち寄って、本や雑誌を一冊手に取り、ただページをめくるだけでもいい。そんなシンプルな喜びを、もう一度思い出してほしいわ。

海、自然との関係を言葉で表すなら?

自然は、いつもさまざまな形で寄り添ってくれる存在。山も海も、私にとってはとても大きな存在で、真っ先に思い浮かぶ言葉は「力強さ」。山へ行くと、まるで大きな何かに抱きしめられているような感覚になる。「おかえり」と迎え入れてもらえるような安心感がある。でも海は少し違う。つらい一週間を過ごした後や、長い一日の終わりに海へ飛び込むと、一瞬ですべてがリセットされるわ。
子どもの頃、私は偏頭痛に悩まされていて、吐き気を抑えるために自分自身へ声をかけながら乗り越えなければならなかった。そんな時、よく「今、自分が本当にリセットされて、心から楽になれる場所はどこだろう」と考えていた。
いつも浮かんでくるのは、海の中へ潜っていく自分の姿だった。水中の静けさに包まれ、頭の中まですっと静まっていくような感覚。ストレスを感じた時も、悲しい時も、私は自然と海へ向かう。もし海や山が近くになければ、雨の中にただ立っているだけでもいい。それくらい自然は、私の暮らしに欠かせない存在だわ。

あなたが夢中になれるもの、心がときめく4つの瞬間

1つ目は、真冬に暖炉の前で過ごす時間。赤ワインを片手にゆっくり夜を過ごしたり、朝ならコーヒーや紅茶を飲みながら、お香を焚いてお気に入りの本や雑誌をめくったりする時間。
2つ目は、空港でこれから飛行機に乗る瞬間。ゲートへ向かうあの高揚感が大好き! これから先の数か月がどうなるのかはまったくわからない。でも、その未知の未来にすごくワクワクしている。旅に出る時って、どんな自分にだってなれる気がするわ。
3つ目は、日の出のサーフィン。少し肌寒く澄んだ朝、海の上で朝日が昇ってくるのを眺めながら波を待っている時間。まだ一日も始まっていないのに、もうこんなにも自分のための時間を過ごせたという満たされた気持ちになれる。
最後はスキー。山の頂上に立ち、一気に滑り降りるあの感覚。ものすごいスピードで風を切りながら滑っていると、頭の中が完全にクリアになる。

これから何か新しいことを始めたい人にアドバイスをするなら?

とにかくやってみること。飛行機に乗って、ずっと行きたかった場所へ行ってみる。アイデアを書き出して行動に移す。とにかく動いてみること。
振り返ってみると、私は20代でたくさんのリスクを取ってきた。18歳で海外へ移住した時も、「じゃあ行ってくるね」くらいの感覚で飛び出して、迷いはなかった。大学の専攻も3〜4回変えた。その時々で本当にやりたいと思うことがあったから、とりあえず行動に移してきたわ。
もちろん、誰もがそういうタイプではないし、そんなふうに簡単にはできないという人にもたくさん会ってきた。それもよく理解できる。でも、自分が何かを信じていて、自分自身を信じているなら、その想いを聞きたい人や見たい人、きっと同じことを考えていたり、それを必要としていたりする人がいる。
そして、人の意見に振り回されすぎないこと。20人に聞いて20通りの意見を集める必要はないわ。信頼できる少数の人たちを大切にしながら、最後は自分自身を信じて前に進む。それが一番大切なことだと思う。

今後の夢と目標

今、一番力を入れているのは、自分のデザインビジネス。最初は、フリーランスとして楽しく仕事ができたらいいな、くらいの気持ちで始めた。どこまで成長するかは流れに任せながら、一方で大きなデザインスタジオで働く機会があれば、それも素敵だなと思っていた。これからはビジネスをさらに成長させ、もっと良いものにしていきたい。いつかスタッフを迎えたり、自分だけのスタジオスペースを持ったりできたらいいなと思っているわ。
そして、もう一つが雑誌。今年、『Lacking Representation』Vol.3をローンチした時、ふと立ち止まって気づいたことがあった。長い間思い描いてきた夢を、今まさに生きている。そんな実感が湧いたの。だから今は、その夢にもっと集中して、さらに育てていきたいという気持ちが強くなった。出版は本当に難しい世界。制作にもお金がかかるし、すべて自費で出版しているから、とても大きなプロジェクトでもある。だからこそ、これから1〜2年の間に何らかの形で発展させていきたい。それがどんな形で実現するのか、自分自身も楽しみにしているわ。

photography_Sara Parker, Abbi Hart

text:Miki Takatori
20代前半でサーフィンに出合い、オーストラリアに移住。世界中のサーフタウンを旅し現在はバリをベースに1日の大半を海で過ごしながら翻訳、ライター、クリエイターとして多岐にわたって活動中。Instagram

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