• 【連載:Ride of a Lifetime】カナダからカリフォルニアまで、ヴァンで旅するサーファーの旅の記録_Episode 18(最終回)/空即是色
  • 2026.04.30

縁によって現れる一瞬の奇跡

夢中になっていた時間は、気がつくと一瞬で過ぎていた。だが振り返れば、その濃密な時間には、確かに何かが刻まれている。すべてがどこから始まったのかは、もうわからない。ただ、ひとつ確かに言えるのは、僕らがその場所に立っていた、ということだ。バハ・カリフォルニア半島の最南端、ロス・カボス。ここが、僕らの折り返し地点となった。温暖な気候、クリスタルクリアの海、整えられたインフラ。常に人のいない荒野を旅してきた僕らにとって、その人の多さに圧倒されながらも、生活の利便性は無意識に求めていたものだった。
常に動き続けてきた僕らは、この場所にしばらく滞在することに決め、旅の疲れを癒した。波があれば海に入り、日が昇れば起き、日が沈めば眠る。1ヶ月を過ごしたプラヤ・パルミージャ。日々を重ねるうちに、顔なじみも増えていった。お寿司を振る舞ったり、ビーチでメキシコのビールカクテル、ミチェラーダを作ってもらったり。静かに満たされる毎日だった。

リゾートに囲まれるザ・ロックというポイント。11月から1月にかけてが穴場で、人は少なく波はそこそこある

プラヤ・パルミージャ。トイレ、シャワー、出入り口に監視カメラもあって僕らのリゾート地となった

キャンプをしていたビーチで知り合った人たちに寿司を握った

12月でもトランクスでサーフィンできる最高の環境があった

良い波に巡り合う瞬間と同じように、すべての出来事は、偶然ではない。うねり、風、潮、地形、時間。そのすべてが重なったときにだけ現れる一瞬。
人との出会いも、きっと同じだ。
僕らもそれぞれ、自分の軌道を持って動いている。交わること自体が、すでに奇跡だ。その“一瞬”の連続の中で、これだけの人に出会い、波に乗り、「自分」という人格を形づくる一部となっていく。空白だった自分の地図に、色が塗られていった旅。だが、その色さえも、常に移ろい続けるものだ。
ロス・カボスを後にし、イーストケープへ。サーフィン中にクジラの親子に出合い、山の谷間に潜む温泉を堪能し、あらためてバハの自然の雄大さに心を打たれた。12月とは思えない暖かさの中で過ごしていた身体は、北へ進むにつれ、確実に季節の変化を感じていく。南下したときには波がなかった場所に波が立ち、波が割れていた場所はフラットになる。乾燥し、枯草に覆われていた景色も、冬の雨によって緑を取り戻し、鮮やかさを増していた。ついこの間、同じ場所を通ったはずなのに、景色は違う。季節が変わっただけではない。僕たち自身も、変わったのだ。

ナインパームスでサーフィン中、遭遇したクジラの親子。パドルですぐ近くまで接近できた

イーストケープにはそこら中に野生のロバがいる。人間は食べ物をくれると思い近寄ってくる

南に下るときはフラットだったところが、北うねりが反応してロングライドが楽しめた

山奥にあるキャンプ場。沢では泳ぐこともできて神秘的な光景だった

1980年代、有名なレジェンドサーファーたちが開拓したと言われているエリア

美味しい食は人を繋げる。年末に楽しい寿司の会を開き、素晴らしい出会いがあった

南バハで見つけた秘境的温泉。温度も40度くらいでちょうどよく、満点の星空の下で疲れを癒した

とあるポイントで数日間サーフィン三昧の時間を過ごした。何もいらない。ただそこには最高の仲間と波があった

一度経験したものは、元には戻らない。それは特別な旅に限った話ではない。僕らは皆、戻ることのできない時間の中を進んでいる。この世に生を受け、最初の光を見たあの瞬間から。目の前で移ろう世界を経験しながら、移ろう自分自身を感じ続けている。一瞬一瞬が、かけがえのない一生に一度の体験。後戻りのできない、一方通行の旅の途中にいる。山もあれば、谷もある。だが、それを越えた自分は、もう以前とは違う。同じ場所に立っても、見える景色は変わる。戻ることはない。だからこそ、前に進むしかない。

本当に、多くの人に支えられてきた。なにより、隣で支え合ってきた妻のあゆみ。人は一人では生きていけない。幼いころ、母によく言われた言葉だ。皆の助けがなければ、この旅をここまで続けることはできなかった。そして同時に、自分もまた、誰かに影響を与えている。互いに共鳴し合うことで、つながっていく縁。限られた人生の中で、同じ時間を共有してくれたことに、ただ、感謝したい。

「Ride of a Lifetime」
すでにあなたは、その波に乗っている。移ろいゆく波のラインをどう描く?

古川良太(サーファー/鮨職人)
20代の3年間、カナダ、オーストラリア、インドネシア、中南米の波を求めて旅を重ね、サーフィンに明け暮れる。帰国後は鮨職人として6年間修行し、日本文化と真摯に向き合う日々を送る。現在は妻と共にヴァンライフを送りながら、カナダからアメリカ西海岸をロードトリップ中。旅の様子はYouTube「アーシングジャーナル」で定期的に公開。
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