• 【特集】SURF MUSIC makes us "SALTY" #11 -コラム:ON THE RADIO/そこでしか聴けない音楽が、サーファーを魅了する-
  • 2024.12.19

海と対峙するとき、音楽は円滑油のような効果を発揮する。サーフィンと音楽が絡み合い起こる化学反応。多くの先人たちの言葉を交え時空に綴れ織りを描くとき、サーファーとダンスの関係が見えてくる。


いつもとは違う初めての出合い

旅先で音楽をスマートフォンから聴くのは気分が良い。でもお気に入りのナンバーだけではなくローカルラジオにチューンを合わせるのも、旅の産物と成り得る。
ハワイならばFMステーションKIKIを聴くべきであろう。ハワイアンのレジェンドからデビューしたばかりのバンドやシンガーソングライターまで、幅広く新旧ハワイアンの曲を聴くことができる。もちろん刻一刻と変化する波情報も頼りになる。またハワイアンがジャマイカ産のレゲエを独自に発展させた、ジャワイアンもポピュラーだ。大柄なハワイアンが小さなウクレレを抱えている姿はなんとも微笑ましい。南太平洋のトンガ、ニューカレドニア、パプアニューギニア、サモアなどでもオリジナリティ性が高いレゲエが奏でられている 。
カリフォルニアはラジオの本場だけあり、無数のステーションを聴くことができる。ジャズ、クラシック、トップ40、懐かしのロック、C&W、ヒップホップ、大学から発信されるカレッジ局、スティービー・ワンダーが所有するソウル専門局など何でもある。なかでもALT987はチルアウトとオルタナティブ系オンリーの先取り感の強いラジオ局だ。エンシニータスのアドボケートは現役サーファーが運営するステーションで、コンセプトは「サーファー以外に聴いてもらう」。しかしリスナーの大半はサーファーで、音楽以外は波情報だけでなくエキジビション案内、海に近い物件紹介、環境問題、ときに政治的な意見も発信している。
オーストラリアならTRIP-J。国内のアーティストがノージャンルで紹介され、年間最優秀アルバムやアーティストを発掘。今ではオージーミュージックのメジャーへの登竜門となっている。'70年代、ブロンズオージーのマーク・ウォーレンはここで定期的に波情報を発信し、これがラジオ版の波情報の発祥とされている。一方TRIPLE-Mはアメリカとイギリス寄りのヒットソングが中心で、サーファーはJを好んで聴いている。どちらも国営放送だ。またバイロンやトーキー、ゴールドコーストなどのコミュニティFMはさらにローカル色の強いナンバーが流れ、日本ではありえない風変わりで前衛的なステーションもある。特にバイロンは現在でもヒッピー文化が定着しているため、オルタナティブ系ミュージック専門のラジオ局が多い。ほとんどコマーシャルもなく、コミュニティ情報が中心だ。
イスラム圏の国々では欧米のヒット曲が流れることは皆無に等しい。バリを含むインドネシアやトルコではその国独自の楽器を奏で、異国情緒を味わうことができる。
余談になるが、バリ島を訪れる多くのサーファーはバリダンスとガムランミュージックを鑑賞して感銘を受けるようだ。1980年ウルワツで開催されたOMバリのコンテストで優勝したテリー・リチャードソンはダンスを舞うような動きでバレルを突き破ったが、その仕草は指先までレゴンダンスのようだったと評価された。実際にテリー自身バリサウンドを愛聴しており、大量のカセットテープを購入していた。クタのラ・バロン、レギャンのドギーズは悪名高いディスコで、オージーと一部のヨーロピアンにより毎晩凄まじい盛り上がりをみせていた。客層からオージーロックがメインで、クタの違法カセットテープショップでは、馴染みのないバンドのテープが並んでいた。ギャングガンジャやスパイ・バイ・スパイ、後に一世を風靡するメン・アット・ワークなど豪州産サーフムービーでしばしばかかるロックは、バリで手軽に購入できた。
南カリフォルニアから南下しながらバハを目指すとラジオから流れる曲もアミーゴしてくる。カリブ海の島々でのラスタマンパワーは別格で、ジャマイカの首都キングストンには、ルーツレゲエ専門局、最新ナンバーしか流さないステーション、海賊FM局まで多数ある。但し狭いエリアでしか受信できないので、キングストンからモンテゴ・ベイまでのロングドライブでは、こまめにラジオをチューニングする必要がある。ただ、どこでもいつでも必ずレゲエが聴ける。そこでしか聴けない音楽。これもまたサーファーを魅了する。

【SURF MUSIC makes us "SALTY"バックナンバー】
#01 -潮騒香る音楽に身を委ね踊るとき-
#02 -ショートボード革命とサイケデリックサウンドの相関図-
#03 -世界中で無限の変貌を遂げ始めたフラワーチルドレンの種-
#04 -制限なき選択ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド-
#05 -サーファーだけが知るアンダーグラウンドという美学-
#06 -コラム:DICK DALE/ヘビー“ウェット”ギターサウンズ-
#07 -コラム:KALAPANA/アイランド“クール”ブリージング-
#08 -コラム:CALIFORNIA BLUE/西海岸からの潮風-
#09 -コラム:REBEL MUSIC/反骨心の魂を追う、サーフミュージックの側面-
#10 -コラム:SURFER' S DISCO & AOR/サーファーズ・ディスコとAOR-


>>特集の続きは本誌でご覧ください。

「SALT…Magazine #01」 ¥3,300

本誌では24ページにわたってSURF MUSICを特集。“サーフィンと音楽”の蜜月関係から、アンドリュー・キッドマンのインタビュー、抱井保徳さんのコラムなど掲載。潮の香りをまとったソルティな音楽は、サーフィンライフを豊かにしてくれる。


photography_ Aition text_Tadashi Yaguchi

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