• 【特集】SURF MUSIC makes us "SALTY" #06 -コラム:DICK DALE/ヘビー“ウェット”ギターサウンズ-
  • 2024.11.08

海と対峙するとき、音楽は円滑油のような効果を発揮する。サーフィンと音楽が絡み合い起こる化学反応。多くの先人たちの言葉を交え時空に綴れ織りを描くとき、サーファーとダンスの関係が見えてくる。


今から80年さかのぼった1945年、第2次世界大戦の戦勝国であるアメリカは好景気に沸いていた。経済が豊かになれば親や教師に反抗する若者も増える。「既成概念を打ち破れ!」は古今東西を問わず若者の合言葉である。1950年代のアメリカのユースカルチャーにはサーフィンとオートバイという武器があり、理由もなく反抗することが生き甲斐だった。重くて扱いにくいバルサからウレタンへとフォームが進化し、サーフボードは身近なビークルとして手に入るようになる。サン、サーフ、ビーチに吸い込まれるように内陸から若い男女が集い、ボールルームでは毎週末サーファーが身体を激しく揺さぶり熱狂した。その様子は当時ストンプと呼ばれた。

このブームの火付け役はディック・デイルで、彼自身も優れたサーファーであった。実際のサーフィンから体感する高揚感を再現しようと、エレキギターをマシンガンのように速弾で掻き鳴らすと、オーディエンスは頭のてっぺんから足のつま先まで痺れた。その噂は瞬く間に広がり、ディック・デイルは地元サンディエゴのヒーローへと昇華し、シングル「レッツ・ゴー・トリッピン」は地元の若者向けラジオ局が挙ってオンエアし、全米で大ヒットした。1961年の夏の出来事である。さらに、'63年フェンダー社が新しいアンプ、ツインリバーブを発表するとスプリング式リバーブは限界点まで深く響き、星の数ほどギターインストルメンタルバンドがデビューする。ザ・シャンテイズは「パイプライン」、ザ・サーファリーズは「ポイント・パニック」、「ワイプ・アウト」などのスマッシュヒットを連発。南半球のシドニーではジ・アトランテックスがデビュー、同じくオーストラリアのデンバー・メンの「サーフサイド」は、全豪チャート1位を記録した。因みにサーフィンとは無縁ながら、英国でもザ・シャドウズはギターインストルメンタルバンドとして大成功を収めた。

バンド名と曲名からサーフィンをイメージしつつ、ヴィジュアルでもアルバムのジャケット全面にビッグウェーブやサーファーの写真が用いられた。この風潮は日本でもエレキブームとして吹き荒れるが、多くの学校でエレキ禁止令が施行されたように、このカルチャーは危険と認識された。それでもザ・ベンチャーズの来日を目の当たりにした寺内タケシなどは、日本独自のサウンドを確立している。その始まりは、ディック・デイルに他ならない。彼の高速ハードピッキング奏法は、80年経った今も進化し続けている。

【SURF MUSIC makes us "SALTY"バックナンバー】
#01 -潮騒香る音楽に身を委ね踊るとき-
#02 -ショートボード革命とサイケデリックサウンドの相関図-
#03 -世界中で無限の変貌を遂げ始めたフラワーチルドレンの種-
#04 -制限なき選択ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド-
#05 -サーファーだけが知るアンダーグラウンドという美学-

>>特集の続きは本誌でご覧ください。

「SALT…Magazine #01」 ¥3,300

本誌では24ページにわたってSURF MUSICを特集。“サーフィンと音楽”の蜜月関係から、アンドリュー・キッドマンのインタビュー、抱井保徳さんのコラムなど掲載。潮の香りをまとったソルティな音楽は、サーフィンライフを豊かにしてくれる。


photography_Bruce Usher text_Tadashi Yaguchi

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