10年単位でサーフィンの歴史を振り返るTHE HISTORY of SURFING。第5回目は1990年代をピックアップ。意気軒昂で高揚感に満ちていた'80年代が嘘のように、'90年代になると得体の知れない焦燥感のようなものが漂い始める。流れてくる音はひずんだグランジロック。サーファーの装いもオーバーサイズで色味は一気にアースカラーに変わった。
ロングボードの復活によって'60年代のレジンティントやピグメント、ピンラインといったカラーラミネートの技術も蘇った。美しくポリッシュされたロングボードは再び人気となり、マシーンメイドが導入された時代にハンドメイドの美学が再び脚光を浴びることとなった。
この時代はビッグウェーブ・サーフィンも再び盛り上がりをみせる。ワイメア、マーヴェリックス、ジョーズ、コルテス・バンクなどへのチャージも盛んになり、ビッグウェーバーという肩書きのプロも増えた。
'92年にはバジー・カーボックスやレアード・ハミルトン、ダリック・ドーナーらがジェットスキーで牽引し波に乗るトーイン・サーフィンを実験的に始めると、それまでパドルでは乗れなかった巨大な波にも挑めるようになる。フットストラップ付きのトーイン用の短いボードはディック・ブルーワーらによって開発が進められていく。
'90年の主役といえばニュースクールと呼ばれる新進気鋭の勢力で、彼らはテイラー・スティールの初ビデオ作品『モメンタム』(1992年)のメインキャストであったことから、モメンタム世代とも呼ばれている。
ニュースクールのなかでも突出した存在だったのがケリー・スレーターだ。'92年、20歳にして初のワールドタイトルを史上最年少で獲得。翌年は膝の怪我もありタイトルをデレック・ホーに譲ったが、'94年~'98年までは5年連続でワールドチャンピオンの座をキープし続け、完全にワールドツアーを支配した。なかでも'95年はパイプライン・マスターズで優勝し、トリプルクラウンでも優勝、最後の最後でワールドタイトルをもぎとり、サーフィン史上初のハットトリックを達成、その後の偉業の礎を築いた。
ロキシーガールは現象だった。サーフィンの世界でこれほどセンセーショナルで一世を風靡した女性ブランドがあっただろうか。
アイコンとなったのは、ほとんどが20歳前の若いモデルたち。ロングボードでサーフィンを楽しむ彼女たちに、ハイパフォーマンスや勝ち負けといったコンペティションが内包する試練や過酷さはいっさい感じられない。彼女たちはスイムウエアにヤシの葉のハットやフラのラフィアスカートを身につけ、ダイヤモンドヘッドをバックに太陽の下で永遠に終わらない夏の波をシェアライドした。
この時代の後半に発表されたふたつの映像作品がカタルシスとなった。アンドリュー・キッドマンの『リトマス』とトーマス・キャンベルの『シードリング』だ。
両先に共通するのは、この時代に流行したプロモーション主導のビデオ作品などにはない強いメッセージ性と、静寂感のある映像と郷愁感漂うバックトラックの秀逸さ、そして何よりコンペや商業色から完全に切り離されたサーフィンの崇高さを讃える独自の世界観を持っている点である。
全文は本誌もしくは電子書籍でお楽しみください。
次回は、2000年代以降をピックアップします。
text_Takashi Tomita
SALT...#01「THE HISTORY of SURFING」より抜粋
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TAG #1990年#THE HISTORY of SURFING#ケリースレーター#サーフヒストリー#モメンタム#ロキシーガール#創刊
ビラボンの公式サイトでは、サーフィンのコアに迫るコンテンツ「#BILLABONGCORE」を公開中。
Vol.2に登場するのは、世界を股にかけるウェイブハンター、松岡慧斗。
ヘビーな波に惹かれるようになったきっかけから、次世代への思い、誇るべき日本の波、自分を貫く生き方をインタビュー。
さらに、2019年に日本人初の「ウェイブ・オブ・ザ・ウィンター」を獲得し偉業を達成するも、その後には苦悩が待ち構えていた胸の内を語る。
インタビューの全文はBILLABONGの公式サイトに公開されているのでチェック!
BILLABONGCORE Ver.2.0 Vol.2 松岡慧斗
TAG ##BILLABONGCORE#BILLABONG#松岡慧斗
プロロングボーダー田岡なつみとフォトグラファーのナチョスは、2022年秋、2023年冬、同年春の3回、北海道・利尻島などに赴き、過酷なサーフィン撮影に臨んだ。その様子は創刊号のSALT...で「美しき白の世界の物語」と題し8ページにわたって特集しているが、実はこのときの撮影の主役は映像であり、出来上がった作品は『MAHOROBA』と名付けられた。
同行スタッフはゼロ。特別な機材はなく、ふたりきりで構成から撮影、編集まで行い、30分のドキュメンタリー作品として完成した。ナチョスは、日本のサーフシーンを世界に知ってもらいたいと、ロンドン、スペイン、ニュージーランド、カリフォルニア、イタリア、ポルトガル、ハワイの映画祭に作品をエントリー。最初に送ったロンドンの映画祭は落選するも、2024年1月、バスク映画祭からノミネートの連絡が届いた。360作品がエントリーしたというから、その倍率は10倍以上だ。
その後、世界中のサーフィンフィルムフェスティバルで上映され、満を持して日本での上映が決定した。場所は渋谷の「ヒューマントラストシネマ渋⾕」。巻末に詳しい情報を掲載するが、ここでは7月26日発売のSALT...#02でインタビューした「映画を作ろうと思ったきっかけ」や「映画祭に参加した感想」などを掲載。ふたりの思いを知ることで、映画の見方も変わるはず。
2024年2月、田岡なつみとナチョスはスペイン・バスクの映画祭にいた。上映前「日本からスペシャルゲストが来ています!」とMCから突然のアナウンス。スクリーンの前に呼び出され、作品や日本の女性のサーフシーンについてインタビューを受けた。終了後も世界各国のメディアから質問攻めにあい、多くの人が日本のサーフィンに興味を持っていると、ふたりは改めて確信した。
「日本のサーフィン、しかも雪が舞う中でのサーフィンを、真剣な眼差しで観てくれていました。でも一番印象に残っているのは、なっちゃんのサーフィンの上手さにみんな驚いていたことかな」
田岡なつみは、世界で活躍する日本で1番、いや、アジアで1番のロングボーダーだが、実はショートボードのプロ資格も持っている実力の持ち主。作品の中ではロングボードだけでなく、華麗にミッドレングスを乗りこなす姿も収められている。
話は戻るが、そもそもふたりはどういったきっかけで映画を作ろうと思ったのか?
「海外の選手やフリーサーファーたちが、日本の波のポテンシャルや素晴らしい文化に気づき、たくさん撮影に来て発信しているにも関わらず、日本人が全く発信できてないことに気づいたんです。私たち日本人が、日本の良いところをきちんと発信しなきゃって。実際、日本のサーフシーンが、こうやって世界をまわるのは初めてじゃないかな?」
田岡のコメントに対してナチョスは「パンデミックで海外に行けなくなり、日本を旅することが多くなったんですけど、行く先々で“あぁ日本は素敵なところがいっぱいで、もっと見てみたいな”って思ったんです。あと映画祭についても、これまでは人の作品を観に行ってたんですが、“自分が撮った作品と一緒に行きたい”と思うようになったんです」。
期せずしてふたりの気持ちとやりたいことのタイミングが一致し、『MAHOROBA』は誕生した。日本ではあまり馴染みがないサーフィンの映画祭だが、世界各地では毎年行われている恒例のイベント。ノミネート作品も多種多様で、ライディング中心のモノから有名サーファーをフィーチャーしたドキュメンタリー、海・サーフィン・スケートを通じての教育系、地元愛あふれるローカル作品からナザレやカムチャッカの山を越えて旅する壮大なものまで、様々な作品がラインナップ。20分前後を基準にショート編とロング編に分けられ、英語の字幕が必須というのがレギュレーションとして設けられている。審査員も映像関係者から人気のクリエイターまで幅広いのが特徴だ。イベントは複数日間かけて行われ、フィルムの上映以外にアートエキシビジョンやライブ、スケートボードのデモンストレーション、トークショー、海や自然をテーマにしたワークショップなどが併催されている。
多忙な合間を縫って訪れたバスクの映画祭。参加した感想をふたりはこんな風に語っている。
「スペインではアジア人が珍しいこともあって、たくさんの人に声をかけてもらえました。作中に登場する日本食や温泉のシーンにざわついたり、これぞ“ニッポン”というものを伝えられたのはよかったと思います。また、他の映画祭で作品を見た人から、日本に行ってみたい、サーフィンしてみたいっていうメッセージをもらえたのが嬉しかったです。これからも作品を作り続け、日本のいいところをたくさん発信していきたいと思います」(田岡)
「現場の空気感や盛り上がりは、実際に訪れてみて初めて知ることができました。オーガナイザーや審査員から、このシーンが良かったなど、意見を聞けたのもとても勉強にもなりました。わたしはイタリア・ミラノのイベントにも参加したのですが、スペインとは雰囲気や形式が違っていて、いい刺激になりました。この作品をきっかけに海外に挑戦しようと思う日本人が増え、その後押しをすることが出来たら最高に幸せです!」(Nachos)
最終的に10カ国の映画祭からノミネートされた『MAHOROBA』(2024年7月12日現在)。ドライスーツ片手に極寒の北海道を訪れ、ふたりキャンプしながら波を探した日々。「楽しかったけど、めちゃくちゃ過酷でしたぁ」と笑いながら当時を振り返るが、そこはふたりにしか分からない厳しさがあったはずだ。かっこよく撮る、素敵に写すなど言ってられない状況の中、いま目の前にあるものをありのままドキュメントした結果、世界の共感を得ることができた。
「誰かがやったことを真似するんじゃなく、自分がやりたかったことをやる。自分に正直に、責任を果たす。その重圧に負けそうになることもあるけれど、そういうのも嫌いじゃないってことにも気が付くことができました。これからもっといい作品を作り、表現の場を増やしていきたいです」
ナチョスのまっすぐで力強い言葉。これからの日本のサーフィン映画の未来に期待したい。
スペイン・ビルバオ映画祭のオープニングパーティにて。パネルの前でワクワクしながらの記念写真
上映前にサプライズで呼ばれて登壇。緊張しながら日本の女性のサーフシーンについて語る
イタリア・ミラノの映画祭。立ち見が出るほど人が集まり、上映後は拍手と“Beautiful!”の歓声が
photography_Nachos
SALT...#02より抜粋
【MAHOROBA ジャパンプレミア上映】
⽇時:2024年11⽉18⽇(⽉)
第1部:17:00開場/17:30上映開始
第2部:18:30開場/19:00上映開始
※各会終了後、「カフェ347」で行われる懇親パーティに参加いただけます
場所:ヒューマントラストシネマ渋⾕シアター2
住所:東京都渋⾕区渋⾕1-23-16 ココチビル7F
座席:全席⾃由席
チケット代:2,000円(税込/2ドリンク付)
※ドリンクチケットはパーティー際に3Fカフェ347で利⽤可能です
※チケットの購⼊はこちら
TAG #ROXY#サーフムービー#ナチョス#まほろば#田岡なつみ
フランス・ビアリッツ出身のカリスマロングボーダー、マーゴ・アハモン・テュコと妹のエメ、マーゴの幼馴染のアマヤの3人が2021年に立ち上げた、女性だけのサーフコンテスト「Queen Classic Surf Fest」(以下、QCSF)。世界中のスタイルのある女性サーファーを招集し、ミュージック、アート、スケート、サーフィンを通じて、女性サーファーの地位向上、LGBTQ+、フェミニスト、環境問題などを発信するイベント。市の後援やVANSが冠スポンサーとなり、夏のビアリッツの一大イベントへと成長した。このコンテストに日本から唯一、高校2年生のアマチュアロングボーダー間瀬侑良夏(ませゆらな)がクレジットされた。憧れのロングボーダーが集う夢の世界。いつかは出場したいと思い続けていたある日、それは現実なものになった……。この特集は、夢の切符を手に入れた間瀬侑良夏が綴ったイベントの記憶。第3回目の今回は、いよいよコンテストがスタート。チーム戦での戦いとなったが、果たしてその結果はいかに!?
ついにコンテストの朝を迎えた。
選手集合時間の7時はまだ夜明け前のビアリッツ。街頭に照らされた寒い街を会場まで歩く。ステージ裏で温かい紅茶とクロワッサンを受け取り、昨夜会えなかった選手たちと挨拶を交わす。昨年「MexiLogFest」のコンテスト中に流してしまったボード(ノーリーシュがルール!)を泳いで取りに行ってくれたマリー・ショシェとの再会。HOTDOGGERに掲載された記事はマリーが書いたもので、ビアリッツと私を繋いでくれた恩人。イタリアからクレジットされた最年少のジンジャー・カイミにエルサルバドルでの勇姿を称え、可憐で美しいサーフスタイルに魅了され続けている憧れのサーファー、マリーナ・カーボネルとハグをする。信じられない! さらに、選手全員にバッグやサングラス、キャップ、G-SHOCKなど協賛メーカーのグッズが手渡された。昨夜からの興奮続きで胸が熱くなった頃、ビーチにエリアフラッグが立てられた。いよいよコンテストが始まる。
QCSFの掲げる「インクルーシビティ(包括性)」のもと、ロング、ショートのトップサーファーと一緒に4人1組のチームが編成された。私は光栄なことにVANSライダーのリーアン・カレン、2022年「Joel Tudor Duct Tape」優勝者のアンブル・ヴィクトワーレ、オランダのプロサーファー、ニエンケ・デュインマイヤーと同じチームに!
各チームから2人ずつクレジットされ、8人の30分ヒートがスタートした。ここバスク地方出身で現在はオーストラリアを拠点にしているローラ・メイヤーのヒートから始まり、ジンジャーのヒートへと続く。
30分後には私の夢の舞台が幕を開ける。
寒さからか、緊張からなのか分からないが、ワックスを塗る手が震える。そんな私にMCのアンブローズ・マクニールさんが話しかけてくれた。彼は以前オーストラリアでサーフィンをしていたときに海で声をかけてくれた人で、おかげで笑顔を取り戻すことができ、ビブスに袖を通した。深呼吸をして、鼓動に合わせるようにヴィラ・ベルザが見守る海に向かって階段を降りた。水中カメラマンの多さに怯みながらも海面には日差しが届き、少しほっとする。私はリーアンとクレジットされ、さらに大好きなカリーナ・ロズンコと同じヒート! 振り返るとずらりと並んだギャラリーの数に驚く。こんなにも注目されているコンテストに参加しているんだと改めて震える。
カウントダウンが始まった。
ホーンと共にオープニングを飾ったのはリーアンだった。サイズダウンしたログ波なのに、ショートボードで板を走らせる姿がとてもスタイリッシュ。BGMのボリュームが上がり、アレサ・フランクリンの曲に合わせてテイクオフをした後は、もう楽しくて仕方がなかった。
プライオリティやマキシマムはなく、海の中ではどの選手も笑顔で、まるでガールズトークをしているみたいにかわるがわるテイクオフしていく。1本1本の波を丁寧にトリミングしながら乗る姿がとてもキレイ。なかでもカリーナは格別で、彼女にだけ秘密の波が来ているかのように巧みにボードを操り、華麗なクラシックスタイルで魅了する。コンテストだということも忘れて見惚れている私に「パーティウェーブする?」と声をかけてくれた。シェアライドからゆっくり慎重に……手を繋ぐ! ボードに飛び移るのに失敗して2人仲良くワイプアウトしたが最高の瞬間であり、最高の贈り物となった。
個々の最高スコアでカウントされ、チーム合計で順位が決まる。私とリーアン、そして次のヒートだったアンブルとニエンケもラウンドアップした! 太陽が昇るにつれ気温も上がり、ギャラリーもさらに増えた。リパチャージで上がってくる選手を待って、次のヒートが始まる。チーム戦なので、絶対に足を引っ張りたくない! という思いと、グッドライディングができたときのリーアンからの「ナイス!」という声かけに自分でも信じられないほどのエネルギーが溢れた。きっと私史上一番多く波に乗った30分だったと思う。
潮の上げこみで少しサイズが上がったが、その後のヒートは見応えがあった。ローラ・ミニョンとホリー・ウォン、カリーナの豪華なVANSチームの競演にギャラリーから歓声が上がり、大人気のサーシャ・ジェーン・ロワーソンがダイナミックに華を添える。サーフィンファンはもちろん、観光客や地元の人など老若男女がコンテストを楽しんでいる雰囲気に、ここに居られることがとても誇らしかった。
満潮を迎えビーチへ下りる階段は封鎖された。ラウンドアップできていれば明日のセミファイナルへと進むことができる。どうかあがっていますように!
海を眺めながら遅めの昼食をとり、会場をまわる。スケートランプでは女の子だけのスケートボードチーム「SKATEHER」による体験スクールや、「FAKE HAIR DON’T CARE」のヘアドネーションができるブース、乳がん予防のための自己検診を呼びかけるブースに目を引かれた。夕方からはスケートコンテストも開催され、各所に置かれたクッションの上で思い思いに過ごしていた。飲食ブースも充実していて、生牡蠣のプレートにワインを楽しむ人、アサイーボウルも美味しそう。緊張から解放されたせいか眠くなってきたので、ホテルに戻ってひと休みすることにした。
18時ではまだ陽が沈む気配のないビアリッツ。潮が引き、海にはたくさんのサーファーがファンウェーブを楽しんでいる。マーゴが入っているのが見えたので急いで着替えて海へ走った。残念ながらマーゴとは入れ違いになり次のお楽しみとなったが、ジャッジのマルタ・ベレングレや何人か選手たちが入っていて、みんなで声をかけ合いながら波をシェアするなど、嬉しいサンセットセッションとなった。
海から上がると生演奏によるカラオケタイムで会場は大盛り上がり! 夕食を受け取りスマホをチェックすると、セミファイナルのヒート表が送られてきていた。願いを込めて名前を確かめる。
「あった!」と叫ぶと同時に、母に抱きついていた。
ブルーモーメントの美しい空に明かりが灯ったヴィラ・ベルザを眺め、密かに夢のリストを更新した。
Vol.4に続く……。
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高校2年生/アマチュアロングボーダー
TAG #Queen Classic Surf Fest#サーフコンテスト#間瀬侑良夏
フランス・ビアリッツ出身のカリスマロングボーダー、マーゴ・アハモン・テュコと妹のエメ、マーゴの幼馴染のアマヤの3人が2021年に立ち上げた、女性だけのサーフコンテスト「Queen Classic Surf Fest」(以下、QCSF)。世界中のスタイルのある女性サーファーを招集し、ミュージック、アート、スケート、サーフィンを通じて、女性サーファーの地位向上、LGBTQ+、フェミニスト、環境問題などを発信するイベント。市の後援やVANSが冠スポンサーとなり、夏のビアリッツの一大イベントへと成長した。このコンテストに日本から唯一、高校2年生のアマチュアロングボーダー間瀬侑良夏(ませゆらな)がクレジットされた。憧れのロングボーダーが集う夢の世界。いつかは出場したいと思い続けていたある日、それは現実なものになった……。この特集は、夢の切符を手に入れた間瀬侑良夏が綴ったイベントの記憶。第2回目の今回は、コンテスト前夜のレセプションパーティまでの様子お届けします。
周りの人のたくさんの助けによって、無事ビアリッツ滞在がスタートした。私のヒーロー、エルワンさんとランチをする前にコンテスト会場であるコート・デ・バスクをチェックしに行ってみる。白壁に鮮やかな色のコロンバージュ(木組み)の建物がずらり。ここバスク地方のコロンバージュに使用できる色は、赤、緑、紺の3色と決まっているそうで、なるほどこの美しい景観が守られている理由が分かった。
通りを抜け、小さな交差点を渡ると、目の前に大西洋が広がった。100段以上の石造りの階段とビーチへと続く長いスロープ。岬の先にはコート・デ・バスクを象徴するヴィラ・ベルザが佇む。何度も見返したリール動画の景色が目の前にある事実と、芸術的なヨーロッパの海に言葉を失った。
コート・デ・バスクは潮が満ちてくると波のブレイクがなくなり、階段やスロープも海に沈んでしまうためサーフィンのできる時間帯は限られている。ビアリッツは朝明るくなるのは遅いが、夜は暗くなるのが遅い。9月も9時近くまで明るく、真夏だと10時ごろまでサーフィンができるそう。なんて羨ましい環境だ!
海岸にはレストランやサーフショップ、ボードレンタルのテントが並び、ボーダー柄のテントがいちいち可愛い。会場エリアまで歩くと併催のスケートボードランプが設置されており、コンテストの準備が進められている様子に心拍数が上がる。 数日後にはこの会場でQCSFがスタートする。息を大きく吸い込んでみる。緊張よりもワクワク感が勝っていた。
エルワンさんのオフィスを訪ねて編集部を紹介してもらった後、人気のレストランでランチをご馳走になった。満腹になった後は腹ごなしに市内を散歩し、欲しかったエスパドリーユや水着を物色。そうこしているうちに潮周りが合うタイミグになり、海に向かった!
サーフボードを片手に街を歩き、長いスロープを降りてヴィラ・ベルザへ。その一歩一歩に感動する。陽が傾きはじめた海へゆっくりとパドルアウト。上からは小波に見えたが、時折入るセットは肩くらい。波待ちしながら眺めるヴィラ・ベルザがあまりにも美しく、胸が震えた。この感動はきっと一生忘れない。
ビアリッツの天気はコロコロと変わる。翌日は朝から雨と強風で、とにかく寒い一日となった。海もノーサーフコンディションなので周辺を散策し、中心に位置する市場「Halles de Biarritz」へ。体育館のような2棟の建物の中に新鮮な海鮮や色とりどりの野菜、それにパンやハム、チーズ、スイーツも! 目が忙しくなる品揃えですべてが美味しそうに見えた。カフェやバー、イートインスペースもあり、2階には購入したものを楽しめるテーブル席が並んでいた。
翌日、天気のせいでほんのわずかな時間だったが、ヴィラ・ベルザをバックにフォトグラファーのロマン・ラフューさんと水中撮影に臨んだ。心地良い緊張感から始まり、最後は笑顔でハイタッチの楽しいセッションに。撮影した写真はHOTDOGGER 10月号に掲載される予定なので楽しみだ!
そしてこの日はQCSFの招待ホテルへ移動する日。彼は次の仕事があるというのに、荷物をホテルまで運んでくれた。ビアリッツはヒーローが住む街らしい。チェックインを済ませ、シャワーを浴びてひと息ついた。今夜から3日間、いよいよQCSFが始まる。
5時から入場が開始。会場の入り口ではセキュリティ・チェックが行われ、規模の大きさを改めて感じた。エントリー確認後、QCSFのテーマカラーであるピンクのVANSのリストバンドが巻かれた。エントリーブースに続々と選手が集まり、2ヶ月前にJULYウェットスーツのローンチイベントで来日していたローラ・ミニョンとカリーナ・ロズンコに再会。ふたりは「やったね、エントリーおめでとう!」とハグをしてくれた。そして初のトランスジェンダー・サーファーのとびきり笑顔が印象的なサーシャ・ジェーン・ロワーソンや会いたかったアンブル・ヴィクトワールなど、トップサーファーたちとも挨拶を交わした。ふわふわした気持ちのままだったが、主催者であり私を見つけてくれたマーゴにも会い、感謝とお礼を伝えることできた。
ステージ裏の関係者用のブースでは食事とドリンクが振舞われる。完璧なまでの夕陽を見ながら自分に起こっているすべてを噛みしめ、ソーダで母と乾杯した。
Vol.3に続く……。
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高校2年生/アマチュアロングボーダー
TAG #Queen Classic Surf Fest#サーフコンテスト#間瀬侑良夏
フランス・ビアリッツ出身のカリスマロングボーダー、マーゴ・アハモン・テュコと妹のエメ、マーゴの幼馴染のアマヤの3人が2021年に立ち上げた、女性だけのサーフコンテスト「Queen Classic Surf Fest」(以下、QCSF)。世界中のスタイルのある女性サーファーを招集し、ミュージック、アート、スケート、サーフィンを通じて、女性サーファーの地位向上、LGBTQ+、フェミニスト、環境問題などを発信するイベント。市の後援やVANSが冠スポンサーとなり、夏のビアリッツの一大イベントへと成長した。このコンテストに日本から唯一、高校2年生のアマチュアロングボーダー間瀬侑良夏(ませゆらな)がクレジットされた。憧れのロングボーダーが集う夢の世界。いつかは出場したいと思い続けていたある日、それは現実なものになった……。この特集は、夢の切符を手に入れた間瀬侑良夏が綴ったイベントの記憶。隔週で4回に渡ってお届けします。
梅雨が近づく5月の終わり、インスタグラムにQCSFから一通のメッセージが届いた。HELLOと表示されたメッセージを開き、読み進める。そのときは宮崎に試合に行った帰りの空港で、隣には母もいた。
「ママ、夢が叶った!」
そう、QCSFからInvitation が届いたのだ。
私がQCSFを知ったのは昨年の秋。インスタグラムのリール動画だった。憧れのロガーをはじめスタイルのあるサーファーばかりが映し出される女の子だけのサーフコンテスト。その動画を見た瞬間、私の夢のリストが更新された。
なぜ私がここまでQCSFにこだわるのか? それはこのイベントがただのサーフィンコンテストではなく、女性を取り巻く社会的問題やセクシャリティをテーマにしているから。同じロングボードでも男性と女性のサーフィンは別ものだと感じていて、女性はビキニやお尻を出してサーフィンをしなくても注目され、評価される独特なサーフスタイルがある。そんなスタイルを持った女性サーファーのみが招待されるコンテスト。選ばれたらこの上ない名誉だと思う。国内外問わず女性のサーフコンテストは男性のおまけのような存在で、賞金の格差も大きい。海の中でもパドルバトルでは勝てないし、故意な前乗りもしょっちゅう。こういった問題はサーフィンに限った話ではないし、根強い社会的問題でもある。ちょうど年齢的にも将来を考えることが多い私は、女性だけで立ち上げた、女性のための大会にとても惹かれ、実際に肌で感じてみたかった。
年が明け、今年の抱負や夢に思いを馳せる。そこにQCSFに出場することを掲げていた。そんなタイミングで届いたInvitation。息することも忘れて読んだメッセージを、今でも鮮明に覚えている。昨年はメキシコで行われた「MexiLogFest」に招待され参戦したが、あの時の不安と期待に胸を膨らませる感覚が蘇ってきた。
QCSFが開催されるのはフランス南西部にあるバスク地方のビアリッツ。MexiLogFestに参加が決まったときも「すごい! よし行こう!」と、すぐにならなかった我が家。オリンピックイヤーのフランスということで金銭的なことや、学校を休まなければならないという問題もあり、まず母を説得することから始まった。
数ヶ月に及ぶ母への(しつこいくらいの)プレゼンと家族会議で決まった条件をクリアし、ついにQCSFへの参加と母の現地サポートを手に入れることができた!
パリ経由でトータル16時間以上のフライトを終えて、サーフボードとともに秋のフランス、ビアリッツへ降り立った。
空港に出迎えてくれたのは、ビアリッツに編集部を構えるサーフカルチャー雑誌HOTDOGGERの編集長エルワン・ラメイニエールさん。昨年のMexiLogFestを特集し、私を表紙に起用してくれた人である。
日本を飛び立つ直前まで、3メートルのサーフボードが飛行機に乗せられるのか、また空港からホテルまでどうやって運べばいいのか分からなかった。そんな不安の中、エルワンさんがヒーローになってくれた。彼の助けにより無事にホテルに到着。エレベーターに乗せられず、螺旋階段を使うしかなかったが、なんとかボードも部屋まで運ぶことができた。さらに、たいていの店は月曜日が休業というなか、夕食にテイクアウトのお寿司まで手に入れた。スーパーヒーローのおかげで、ビアリッツの1日目を無事終えることができた。
翌朝、ジェットラグの影響もなく7時に目が覚めた。まだ日の出前で外は暗い。そして寒い。なかなかベッドから出られなかったが、数時間しか眠れなかったという母に叩き起こされ、ビアリッツの街へ出掛けた。
昨日は暗くて気づかなかったが、街はまるでディズニーランドの世界! おとぎの国に迷い込んだようで、古い建物がとにかく素敵。周りを散策しながらお目当ての焼きたてのバゲットを目指した。
8時にならないと明るくならないなんて、朝が苦手な私にはピッタリの国! と思っていたが、全くそんなことはない。街は普通に朝を迎えていて、7時前から営業しているブーランジェリーのバゲットは、もう焼きたてではなかった。レジの前には列ができていて、店員さんが慌ただしく動いている。店内にはサンドウィッチから甘い系まで品揃えが豊富。レジで注文するスタイルにちょっと緊張する。英語は聞こえてこない。とりあえず母に任せよう。バゲットは男性名詞? 女性名詞? とぶつぶつ言う母だったが、バゲット1本とクロワッサン2個、ショコラティーヌ1つをオーダーした。ちなみにビアリッツでは、パン・オ・ショコラではなくショコラティーヌと言う。
映画のワンシーンのように、すぐにバゲットを食べてみた。焼きたてではなかったが香りが違う。ずっと噛んでいたいくらいに美味しい。スーパーでフルーツと野菜を買って朝食にしよう! 立ち話をしながらコーヒーにクロワッサンを浸して食べている人、パンを片手に犬の散歩をしている人、バゲットをかじりながらおとぎの国を歩いている私。あぁ、本当にビアリッツにいるんだと実感した。
Vol.2に続く……。
高校2年生/アマチュアロングボーダー
TAG #Queen Classic Surf Fest#サーフコンテスト#間瀬侑良夏
2020年、滋賀県出身の20代サーファーによって結成された「グンジョウマル・レディオ」。彼らは改装したワゴンに乗り込み、日本各地のサーフスポットを巡りながら、旅先での記録を『Keep on...』という雑誌にして出版している。その誕生のきっかけとなったのは10月に訪れた北海道。すし詰めのワゴン車に乗り込み、苫小牧から東へ。襟裳岬、フンベの滝を経由しながら知床まで、2週間弱の長旅だった。
「男10人の大所帯だったので、さすがに全員で車内泊はできんくて、何人かはテント。ある日の夜は、寒すぎてサーフブーツを履いて寝ました。そんな感じの貧乏旅行だったけど楽しかった。海に入ったらアザラシに出くわしたり、見たことないくらい綺麗な夕焼けに遭遇したり、いい景色をいっぱい見られたこともいい思い出。極めつけに、帰りに寄った室蘭で生涯で一番いい波に乗れました」
大変なこともあったけれど、いい波にあたればすべて忘れられる。サーファーってアホだと思わされるけれど、アホになるから楽しめることもある
北海道斜里町の「天へと続く道」といわれる場所。男10人、安飯も安宿も、みんなで経験したら、かけがえのない思い出になった
旅の終盤、東側を走行中に撮った1枚。この辺り一帯どこもいい波が割れていた。どこで入るか悩みながらクルマを走らせる
雑誌の販売にあたり、意識したことがひとつあった。それは、“手売り”にこだわったこと。リリース当時はコロナ禍。人と人との繋がりが希薄になり、世の中が暗く澱んでいたときだ。
「感染対策を万全にして、来られる人だけに来てもらえるように呼びかけてローンチパーティをしました。それでもたくさんの人が来場してくれはったんです。僕らもこの旅を知ってもらうんじゃなしに、雑誌をきっかけに会いに来てくれた人たちと、ただ話をしたかった」
来場者の反応に自信をつけた彼らは、その後も宮崎や島根、湘南などさまざまな場所に出向くように。訪れたのは、どこもグッドスウェルで知られるサーフスポットばかり。そして、その旅の様子はもちろんVol.2以降の『Keep on...』にまとめられている。
右上から時計回りに_沖縄の旅で。急にサイズアップした無人のポイントでサーフィンを楽しんだ/『KEEP ON…』Vol.1のリリースパーティのときにみんなでサーフィン。ボードの長さも、厚さも、形もそれぞれ。みんなちがって、みんないい/定例イベント「THE DOGGIE DOOR」開催時に撮影。場所は滋賀県彦根のマーレーキッチン/北海道トリップ最初の朝、綺麗な波が割れるノーバディのポイントを発見! 極寒の夜を乗り越えた先に見つけた忘れられない景色/北海道釧路。スケートでトンネルを滑走していると「日本一の夕陽」が差し込んできた/バンドの十八番は「ロングヘアでロングライド」。偶然か必然か、メンバーの髪は押し並べて肩まで長い/瀬長島からのサンセット。旅の醍醐味はこういう風景に出逢えるところ/2023年9月、宮崎に来日していたオージーサーファー3人とセッションし、そのま数日かけて滋賀まで旅をした
photography _ Keisuke Nakamura text _ Ryoma Sato
「SALT…Magazine #01」 ¥3,300
グンジョウマル・レディオの旅のモットーは、“小さな波も幸せも、しっかりキャッチ”。時代の波に逆らうように、リアルで人と繋がり、ノンフィクションを生きる。そんな彼らの次の行き先は、果たして……。続きは本誌をチェックしてください。
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